第14章 楽園事件:5
常守の目線が路面店に向けられる。
「可愛いものがあれば欲しいなって思いますけどね。」
「それはそうだろう。」
聞きたいのは今の時期にある気持ちかどうかだ。
「私はそこまでじゃないですけど、女の子は大抵そういうところあると思いますよ?」
自分はそうではないが、学生時代の女友達がそうだった。仲良くないが他の女の子もファッションには敏感だった印象がある。
常守自身も興味がないわけではない。コーディネートだって考えられる。だがオシャレをするというよりTPOに合わせている。やはりファッションに前のめりなタイプではない。
難しい顔をしている宜野座に常守は欲しいものがあるなら付き合うと言った。執行官の外出に監視官が着くのは服務規程。
「いや、俺はいいんだ。」
「?じゃあ誰に…」
言いかけたところで気がついた。
「誘ってみたらどうですか?」
「なっ!ばばばバカなこと言うな!」
取り乱す宜野座に常守は笑いを堪えて続ける。
「心配なんですよね?さん、寒い中どうしているか。」
「確かに心配ではあるが…」
断られるに決まっている。彼は小さな声で呟いた。なんて可愛い人だと歳上の元上司に対して思うのは不謹慎か。
宜野座は溜息をついた。
「あいつのことを考えると、どうも狡噛のこともチラつく。公安局入局したての右も左も分からなかった頃、あいつはに大苦戦してた。時が経って狡噛は結局猟犬になり逃亡。俺にもできることがあったんじゃないかっていつも思う。」
「狡噛さんだってきっと分かってましたよ。自分が監視官だったから尚更。」
それが嫌だった。狡噛は監視官の気持ちがわかる。自分は執行官のことなんて理解しないように心がける。いざ執行官に落ちてみれば悲しいものだ。元は良い友人だったはずなのに、いつの間にそんな一線を引いてしまったのだろう。
「償い、にはならないが。あいつが残したものをあいつの満足いくように片付けてやりたい。だからの事は目にかけたいと思ってる。」
「だったら早く連絡したらいいじゃないですか。」
「そ、そうなんだが…」
何分女性を誘って出掛けるなど仕事以外にした試しがない。普通の女性ならまだしも彼女は一味違う。それどころか人種が違うと言ってもいい。言葉もはっきり伝えなければ通じない。