第14章 楽園事件:5
パトロールを終えて執務室に戻る途中、休憩所で常守と宜野座は別れた。宜野座は連絡してから戻ると決めた。恥ずかしい。デバイスの連絡先を表示させて止まっている。しかも向こうはデバイスを持っているのは亮一だ。亮一にも聞かれることになる。恥ずかしい。だが思い切ってコールした。
が、なかなか出ない。心臓の動きが早まり恥ずかしさが苛立ちに変わりそうだった。その時、やっとでた。
「どうかしたんですか?」
亮一の声だった。まあ予想通り。
「はいるか?」
「ちょっと待っててください。」
亮一のを呼ぶ声がデバイス越しに聞こえてくる。近くに来たのだろう彼女の返事も拾っている。
「はい。」
は相変わらず淡白だ。
「。最近寒いな、元気にしているか?」
「はい。」
違う、こんな会話しに掛けたわけじゃない!
「あ…その。買い物に付き合ってほしいんだが…」
「え?監視官が必ずついてくれるじゃないですか。」
「そ、そうなんだがそうじゃなくて!お前に来てもらいたいんだ。」
「なんで?」
「なんでって…」
それを説明したら意味がなくなるような気がした。これでもはっきり伝えたつもりだったのに。だがここで断られればもっと意味がない。どうしたものか。すると現る救世主。
「。」
それは呆れを含む声色の亮一だった。
「宜野座さんはお前をデートに誘ってくれてんだぞ?」
「ぇえ!?」
からは聞いたこともない驚きが溢れた。さっきから同じことを言っていたつもりなのに何故こうも違うのだろう。
しかもデバイス越しに亮一ともめているような声がする。何を話しているのかは聞こえないが、行く行かないを言い合っているのはなんとなく想像がついた。
「明日の正午きっかりに来い。同行は常守に頼む。」
それだけ伝えて通信を切った。我ながら強行手段だと思う。監視官時代に身についた技かもしれない。言うことを聞かない猟犬が多かったせいで役に立った。
宜野座は缶コーヒーを買ってから執務室に戻った。常守に外出届と同行依頼を提出し、許可を得た。あとは突然の出動要請が入らないことを切に願う。
それにしてもは外出するとき用の服を持っているのだろうか。