第13章 楽園事件:4
「本当だ。疲れちゃいましたかね。」
「普段からまともに寝ないんだ、悪いけどこのままにしといてやってくれる?」
外で暮らす彼らにとって寝るということは無防備になることだ。そのせいでまとまった睡眠は日頃からとらないらしい。いつ何が起きてもいいように神経を尖らせている。だからこれほど安全な場所はないという。
宜野座が戻ってきて寝ているを見下ろした。白い睫毛。白い髪。動かないとまるで人形だ。昔の幼さはもうない。
「随分経ったな…まだ少女だったのに。」
だがその時間は自分にも等しく流れている。自分の時間の経過は感じないが嫌でも周りが変化していく。それに巻かれてきた。宜野座はの隣に腰を下ろす。
「昔はこんなに白くもなかったしな。」
「メラニン異常な。俺も色変わった。」
とはいえ彼は白くない。変わったと言われても違和感はなかった。
「細胞の再生過程で起きる現象なんですか?」
常守はワインをグラスに注ぎながら尋ねる。
「いや、センセイ…阿頼耶が言うには体が人でいるときの色素構築を優先しなくなったせいだって。」
「優先順位が下がるなんてこと、あるんですね。」
常守は聞きながら思う。彼は阿頼耶をうっかりセンセイと呼んでいた。まだ亮一は迷っているのかもしれない。阿頼耶と対峙するべきかどうか。それでいてを孤独にしたくないとも。
「化身するときってどんな感じですか?」
「どんな感じ?」
「その、違和感とか痛みとか、あったりするんですか?」
うーんと亮一は腕組みして天井を見る。
「歯が生えてくる時は痛いんだよな、それ以外は別に。俺は骨格より筋肉が変わるから。骨格が変わるの方が痛いかもしれないな。」
「そうなんですか?」
「翼で飛ぶにはバカみたいに発達した胸筋がいる。その胸筋を支える骨を作らないといけない。」
常守は聞きながらデバイスで検索する。それは竜骨突起という翼で飛ぶ生き物特有のものだった。
「骨の形成が一番時間がかかる。それでもこいつは驚異のスピードだけどな。イチからやっても多分一分くらいで変われる。」
「すごいですね…!」
「阿頼耶にとっちゃは最高傑作だ。いくら反抗してきても絶対取り戻そうとするだろさ。」