第2章 File:2
狡噛はタブレットを打つ手を止めての方を向いた。
相変わらず目を合わせようとはしない。
怯えたようにも見えないが、見たくないから見ないのだろう。
狡噛は溜息をついた。彼女に会ってから増えた気がする。
「天利、に何か飲み物を用意してくれるか?」
「アイアイサー!」
元気よく飛び出していく天利を困ったように見送った。
はそんな中でも自分の空気を変えない。
目は伏せられ、まるで別な世界を見ているようにもみえた。
「。」
狡噛の呼びかけに目だけを向ける彼女は相変わらず不気味だった。
「あの日のことを話したい。できるか?」
はまた視線を戻した。暫く黙っていると天利が缶の温かい飲み物を持って戻ってきた。に渡されたのはココアだった。
「温まるよ、飲んで飲んで。」
天利の柔らかな微笑みにの強張った顔が一瞬緩んだようだった。
缶は音を立てて開けられると甘い薫りがふわりと漂う。
すーっと鼻からゆっくり息を吸うとは缶に口をつけた。それをみて狡噛も安心したように微笑んでいた。
は両手に持った缶をそのまま膝に乗せると口を開こうとしていたが、唇は震えたいた。
言い難いことか、それとも恐怖か、言葉になるのをただ待った。
「私を…」
小さな声から始まり狡噛は背もたれに預けた体を起こした。
一言も聞き漏らすわけにはいかない。
「殺してください。」
「!?何言って…」
「殺してください!」
情報を聞くつもりがなぜ死の願望から始まるのか訳が分からなかった。だが彼女はいつになく気迫のある物言いだった。
天利も昏田も唖然としている。
「お前昨日も言ってたな、死にたいって。なんでそんなに死にたがるんだ。」
廃棄区画の生活がどんなものなのか、実際のことは狡噛はよく知らない。シビュラシステム不適合者の集落のようなところだ。関わればサイコパスが濁るという都市伝説的なものもあり、健全者はなるべく関わらないようにしている。
配属して日の浅い狡噛はまだ廃棄区画の住人と関わることを和久からも極力避けるように言われていた。
屈強なサイコパスの持ち主で無ければ維持することは難しいと。