第13章 楽園事件:4
その後、常守と宜野座、唐之杜が合流し、注文していた料理も届いてテーブルの上には和洋折衷様々並べられた。霜月ももちろん誘ったのだが怪物二人と同じ空間にいられないと頑なに拒まれた。仕方ない反応だ。常守も無理強いはしなかった。
「もう食べていいだろ!?」
「お願いだから下品にしないで。」
真っ先に取皿に料理を次々盛っては食べ盛っては食べの亮一。グラスに酒を入れて料理をつまむように食べる常守。唐之杜と六合塚は隣に座って妙に距離が近いので何かあるのだろう。はといえば亮一の食欲がおさまるまで何となく食べる気になれなかった。何も持たずに座りもせずに立って見守っていると宜野座がグラスを持ってやってきた。
「一杯どうだ?」
その手にはウイスキーの角瓶。今ではなかなか見られるものではない。
「私、アルコールの分解が苦手で…」
「ブッ!なんだそれ。」
「え?」
驚いた。なにより、宜野座がこんな笑い方をする人だったのかと。昔のガミガミ怒ってる様が脳裏に焼き付いていたのでギャップに対処しきれない。
「酔いやすいとか単に苦手とかなら分かるが、分解が苦手って初めて聞いた。」
「…苦手な人はあまりいないものですか?」
「分解についてまで分かっている人はいないと思うけどな。」
「そうですか…」
「ちなみに言うと、俺も最近嗜むようになったばかりだ。だから酔いは回りやすい。」
「それでも飲むんですか?」
「あぁ、親父が残した物だ。飲むと親父に近づいたように錯覚する。」
「……死の縁に立つほど危険なのですか?」
「……?いや、そうじゃない……。」
うまく伝わらない。彼女に象徴的表現は通用しないらしい。
これでよく狡噛と会話ができたものだ。いや、もしかしたら成り立っていなかったかもしれない。でもあいつは器用だからそのあたり順応するのだろうか。
「親父は酒好きでな、だが生きてるとき、俺は色相が濁るのを恐れて飲もうとしなかった。」
「お父さんの真似をして近づこうとしてる、ってことですか?」
「そういうことだ。」
なるほどとはゆっくり何度も頷いた。
理解は早いらしい。
「ギノさんは征陸さんと同じニオイがします。分かりますよ。」
それは同類の意味か、血縁があるから本当に同じニオイがするのか。どちらにしても今の彼には同じことだった。