第13章 楽園事件:4
と亮一が刑事部屋に戻ると、すでに軽食が少しだけテーブルに並べられていた。フードプリンタである程度のものはできる。食器を並べる六合塚が二人を振り返る。
「よかった、戻ってきたのね。」
「この犬の食欲がおさまらないから。」
「犬って言うな。俺は狼だ。」
「はいはい。」
二人を見て六合塚がクスと笑った。なかなかいいコンビだと思ったらしい。
「誰も料理できないから出前を頼んでるの。来るまでもう少し待ってて。」
待つ間、二人は六合塚を手伝って飲み物の準備をした。カウンターテーブルに酒の瓶やソフトドリンクのペットボトルを並べたり、冷凍庫に氷を補充したり。
「アルコールは飲むの?」
「私は飲まない。肝機能が人より劣ってるから、飲むと暫く動けなくなるの。」
「そうなの…以外と不便なのね。」
「その代わり生物には強いぜ!」
「ナマモノ?」
「生肉食っても腹は壊さない!」
「そ、そう…すごいわね。サバイバルでも生きていけそうね。」
「そういう遺伝子だからね。」
ふーんと、興味があるのかないのか分からない返事だが六合塚は続ける。
「飛ぶって、どんな気分?」
は手元に置いたグラスを眺める。
「どうかな。あんまり飛ばないから。」
「そうなの?」
「高く自由に飛ぶには全身を変えなきゃいけない。でもこの狭い街でそんなことあまりできない…」
それには彼女も納得した。
の翼ときたらとても大きかったのは目の当たりにして覚えている。
「翼をもつだけじゃ、人は飛べないのね…」
「滑空はできる。でも高く飛び上がるのは無理。翼が小さければ体が重くて飛ばないし、翼が大きれば筋肉が足りなくて飛べない。」
「ちょうどいいって無いのね。」
「ない。」
「ふーん。」
ふと、六合塚の目に亮一がつまみ食いをしているのが入った。つかつか寄っていき皿に伸ばした手を引っ叩く。
「いって!」
「待っててって言ったでしょ。」
「ちょっとぐらいいーじゃん!」
「犬もできるわよ、待て!」
「くぅ…なんだよそれ。」
叩かれた手を擦る亮一には肩を震わせて笑っていた。
いつもは自分がする立場を端で見るのはこういう気分かと思った。