第13章 楽園事件:4
足早にエレベーターへ向かうを無言で亮一は追った。掛けられる言葉も彼には分からなかった。
だが、の足は急に止まる。エレベーターホールには黒髪で細身だが背の高い男が立っていた。
「ギノさん…」
がそう呼んだ。この男の名を。
「…大丈夫か?」
彼はどこまで知っているのだろうか。それか何も知らなくても様子だけで声をかけたのか。
瞼を伏せたままの彼女に目をやって、それから後ろの亮一をみる。背丈は少し低いが筋肉質で大きく見える。
は何も言わず通り過ぎようとした。
「まぁ待て、少し話さないか。」
なぜここの奴等はみんな話したがるのか亮一にはよく分からなかった。正直暇なわけでもない。早く阿頼耶を見つけるためにまた動かなかいといけない。
「我武者羅に動いても消耗するだけだ。情報は欲してさえいれば向こうからやってきたりするもんだ。」
「待っていられません。妹の身も心配です。」
「気持ちは分かる、だが無闇に動けばこっちがやられる。俺だって力じゃ敵わなかった。」
は聞く気が無いのか下階に降りるボタンを押す。
亮一はギノと呼ばれた男と目を合わせた。彼は肩を竦めてみせた。同情する。彼女は扱いが難しい。
「言い方が悪かった、息抜きをしないかと言いたかったんだ。刑事部屋に食事や飲み物を用意するから、気が向いたら来い。」
そう言って彼は医務室の方へ歩いて行った。常守に用事があるのだろう。それよりも食事がでると聞いて食らいつきたい程高揚している亮一はどうにかを説得させたいと考えていた。お金を持たない彼等はろくに食事を取っていなかった。亮一が行きたくて仕方ないのは顔を見なくてもにはわかっていた。あまり慣れ合うのは得意ではない。だが仲間に食事もあげられないのはやはり良くないと認識している。エレベーターが降りてきた。すっと入るに対して渋々入る亮一。まだ行き先階は押してない。
「なぁ!」
「わかったよ!行きたいんでしょ?」
「お前も来るだろ?腹減っただろ?」
空腹はある。それでも迷った。だがこのお散歩前のわんこの様な亮一を前に自分は行かないなんて言える雰囲気でもない。
「うん、じゃあ行く…。」
「よっしゃ!飯だ!!」