第13章 楽園事件:4
それについては唐之杜も説明してくれた。深い引っかき傷と噛み傷を複数負っていて一部骨にヒビもあったがそれらがすっかり元通りに治ったという。
「すごい…」
思わず口から出てしまう。しかしこれだけの治癒能力があるのにはなぜわざわざ治療を頼んだのかが気になった。それが通じたのか、それとも心の声が出ていたのかすぐに解かれた。
「リョウはまだ化物になってそんなに経ってないから、どれぐらいで治るかがよめなかった。だから頼んだ。診てくれてありがとうございます。」
は常守と唐之杜を交互に見て頭を下げた。唐之杜は自分は何もしていないからと困っていたが。
常守は申し訳なさそうに頭を垂れる亮一を見て言う。
「あの、お二人が良ければ少しお話しませんか?今回の阿頼耶について、情報が欲しいんです。さん、デバイスなくしちゃってるみたいだし次いつ話せるか分からないので…」
亮一もの手首を見た。デバイスがない。外したのか、落としたのか…。
「翼につけていられなくて弾き飛んだの。今度探してくるから。」
「大丈夫ですよ。機密情報が入ってますからデータは削除してもらってます。新しいものを用意するので、またお渡ししますね。」
支給品を紛失した後ろめたさのようなものがあるらしい。彼女は目を合わせなかった。
「話って、分かってることは全部話してるけど。」
「今回、阿頼耶は化身した状態で接触してきたわけですが、お二人がかかっても捕まえられない、それどころか私達では手も足もでないほど戦いに慣れているようでした。」
「それに関して言えば俺たちも誤算だった。あそこまで動くには普通はそれなりの年月がかかる。」
「何より、阿頼耶は私達よりずっと日が浅い。私達が阿頼耶の化物の姿を知ったのは二回目の接触の時。逃走時に姿を変えた時だった。」
「それはいつ頃の話ですか?」
「確か、一ヶ月くらい前。」
「では、お二人と阿頼耶の間に諍いが無かった頃、彼に化身の能力がなかったと確証はありますか?」
二人は顔を見合わせて黙る。確証できるものはなかった。彼は化物にならない、そう思っていただけの可能性も十分にある。
「実は新たに分かった事実があります。」
常守はそう言うと唐之杜に目を向けて資料の提示を求めた。