第12章 楽園事件:3
犬の遠吠えが聞こえる。
人の気配は殆どない場所だ。古い建物が多く錆びた階段が低層ビルに巻き付いている。窓もいたるところが割れていた。廃棄区画と言えどまさに廃墟。汚染水のニオイも混ざっているし酷い場所だ。常守が霜月と六合塚に情報を伝え指示を出す間に宜野座はもう一度に連絡をした。
散々コールした末にやっと出る。が、無言だ。
「おい、勝手に切るな。」
「なら勝手にかけてこないで。」
宜野座はムッとした。だが波風を立てるわけにもいかない。
「それより状況はどうだ?見つけたんだろ?」
「姿はまだ。気配だけ微かにある。」
よくもまあ微々たる気配を感じながら追いかけられる。さすがは野生の血といったところか。
「俺たちも現場についた。位置は確認できるようになっている。こっからは早いもの勝ちだな。」
互いに阿頼耶の詳細位置は把握していないなら五分五分だ。
がどう出るか待っているとまた沈黙が始まる。
「おい、聞いてるのか。」
さっき勝手に切るなと言ったから切らずに放置しているのではないかと思ったが、どうやらミュートになっていただけらしい。少し慌てるような彼女の声が入ってきた。
「武装集団がいる。火薬の武器を持っています。阿頼耶の仲間です。気をつけて下さい。」
「なに!分かった。も早まるなよ。危険だから俺たちが着くまで無闇に動くな。」
宜野座はすぐに通信を切って常守に伝えた。こちらも武装の許可を出してもらい突入する。常守六合塚班と霜月宜野座班に分かれた。
小さなビルの屋上から身を屈めて下を確認する亮一は、銃のような武器で武装した男たちの様子を見ていた。
背後では通信を切ったが立ちあがったところだった。
「どうする?」
亮一は黙るに聞く。集団に立ち向かうには二人では分が悪い。
「武装集団は公安局に任せて、私たちは阿頼耶を。」
「なら早いとこ接触させないとだな。」
自信に満ちた笑みを浮かべ、亮一の身体はメキメキと手足の筋肉が発達し、指は短くなり大きな爪が伸びる。顔も鼻から前に突き出して肌は灰色の毛に覆われた。髪は毛質が変化し鬣のようになり、耳が上に立った。歯も牙の如く尖る。段々と腰を落として四つん這いになるともう狼の姿だった。