第12章 楽園事件:3
「阿頼耶真という人物をご存知ないですか?」
老人は一瞬だけ手をピクリとさせた。
「いいえ…。親戚にもいなかったような…」
「そうですか。」
この老人の母親も静香とは暫く会っておらず、数年に一度顔を合わせる程度だったので最近のことはほとんど分かっていなかった。
常守は早々に引き上げた。
帰りの車内で急ぎ連絡を入れる。
「唐之杜さん、阿頼耶静香の出産履歴と交友関係、それと防犯カメラの記録を遡れるだけ遡って出してください。」
常守が一係の執務室に戻るとすでに結果が来ていた。霜月監視官と六合塚執行官は外に出ていて不在。宜野座だけが残っているので一緒に確認する。ファイルを開くとすぐに唐之杜から着信が入った。
「阿頼耶静香の防犯カメラの映像で気になるものがあったの。廃棄区画の側で写ったものよ。」
約四十年前の映像を掘り返したので粗くはっきりと見えないが、子供の手を引いているように見えた。
「この子のデータはありますか?」
「それが厚生省のデータベースに載ってないのよ。もしかしたら無戸籍者を保護したのかも…。この近くに児童養護施設もあるみたいだし。」
データ画像には数件の施設が表示された。
しかしこれ以上この子供が写っている映像はなかった。仮に子供が本当にいたとすれば街頭スキャナを回避し続けたことになる。
「この子供の映像は他にありませんか?」
「一応探したけどなかったわ。画像が粗すぎて検索できないからなのかもしれないけど。」
「ではこの子供の画像を大人にすることはできますか?」
「精度は期待できないわよ。」
「構いません。お願いできますか?」
「はいは〜い。」
常守は画面の光を遮るように目を瞑った。ゆっくり開けると心配が顔から滲み出てる宜野座と目が合う。
「大丈夫ですよ。」
「まだ何も言ってないが。」
「宜野座さん顔にすぐ出ますから。」
「何ッ!」
宜野座は電源の入っていない真っ黒な液晶画面に映る自分をみた。が、自分では良くわからない。そうしている間に仕事の早い分析官から連絡がくる。
「復元した画像からそれらしき男性が数名該当したわ。」
データはすぐに二人に送られてきた。一係全員に送信されている。宜野座はに連絡した。長いコールの末にようやく出た。
「はい。」
「。宜野座だ。」
「ギノさん?」