第12章 楽園事件:3
「冗談よ冗談。」
「もーう唐之杜さんってば…」
確かに人間の生物学上は常守の言うとおり、子供にしかDNAは遺伝しない。だがは何もかも特殊なケースだ。
「生物の中にはオスの精子からDNAだけを盗んで自分のゲノムに加えることができるやつもいるって聞いたことあるわ。なんて名前だったか忘れたけど、それと同じ原理だったら有り得なくはないわね。」
結局半ば冗談ではなかったということか。昔の部下が誰と関係していようが常守に関係はないが、なんとなくモヤモヤとしたものが残った。
「でもどうしてオスのDNAだけ盗むんでしょうか。」
「いいとこ取りしたいからよ。メスにとってはより強くて生き残る良い遺伝子を残したい、でもそれ以外に無能なオスはいらない。どの世界も女は最強なのよ。」
「はぁ…」
確かに狡噛は頭も良く運動能力も人間を越えていた。遺伝子レベルで言えばすごそうだ。
「まぁ、彼女には当時から子宮が摘出されているから子孫繁栄は最初から目的じゃないでしょうけど。イヌワシのDNAを入れる時に原理を同じにした可能性はあるわよね。」
人知を超えすぎている。と当時向き合った狡噛はどうしていたのだろう。当時を知る刑事課の人間は宜野座しかいない。のことは彼に頼るしかなかった。
翌日。それぞれが担当した捜索が開始される。常守は阿頼耶と同じ名字の女性の母親へ聞き込みに。白髪で背中の丸くなった老人だった。女性は彼女の一人娘で、数年前に病で亡くなった。子供を先に失くしてさぞ辛いかと思ったが見えるところに仏壇や、彼女の写真は無かった。不自然なまでに。彼女がどんな人物であったか問えば、子供の頃から勤勉で大人になってからは医療の研究所にいたという。経歴は特に不思議なものはない。
「娘さん…静香さんにお子さんは居ませんでしたか?」
常守は耳の遠い老人に聞こえるよう声を張った。
「いいえ。出産はしましたが、難産で亡くしてしまいました…。あの、刑事さん。静香は何か悪いことをしていたのでしょうか。」
老人は不安げに声を震わせる。だが何か怯えているようでもあった。常守はそれを異変と思う。
「まだ分かりません。ですが何か事件に巻き込まれていた可能性がありますので念の為にお伺いしました。」
老人はお茶の入った湯呑をゆっくり口まで運ぶ。