第11章 楽園事件:2
「私はそれを止める。阿頼耶の勝手で犠牲を増やしたくない。」
常守は真っ直ぐにを見た。彼女の目はいつだって本気だ。獲物を追う執行官のそれとよく似ている。
「一緒に探します。ただし、こちらが先に捕らえた場合は法に従い処分を決めます。」
「化物に特化した法でもあるっていうの?シビュラは銃で測るだけ。あなたたちは銃の言いなり。」
「そんなことはありません。私たちは私たちの判断の元で執行します。言いなりになるだけならドローンにドミネーターをつけても良かったはずです。でも未だに人の手で管理されている。それには理由があるってことです。」
は目を閉じて沈黙した。この沈黙の長さは居心地が悪いと二人は思う。狡噛なら待っていられないだろう、とも。
「早いもの勝ちってことだ。それでいいか?」
宜野座も沈黙に負けた。
は薄っすら目を開ける。
「分かりました。」
ひとまず納得してもらえたのだと常守は受け取る。
あとはもう少し阿頼耶の情報が欲しい。遺伝子工学について並外れた知識の持ち主であることは確実だ。そのあたりの研究者に同じ名字の者がいないか、常守はその場で唐之杜に依頼する。だが結果はゼロ。
「あ、ねぇちょっと待って。」
デバイスから聞こえる唐之杜の声はタバコを加えているのかややくぐもる。
「阿頼耶って名前の親戚がいるってなら出てきたわよ。データ送るわね。」
それは女性の写真で、年はとっているが茶色いショートヘアの優しい顔をしていた。常守はそれをに見せる。
「この人、阿頼耶真に似ていると思いますか?」
は画像をじっと見つめていた。それ以上表情に変化はない。ハズレなのかと思った。
「わからない。似ていると言われればそんな気もする。」
これだけでは手がかりにはならない。とりあえず聞き込みするしかなくなった。
「さん。私達は阿頼耶を捕まえるというところで目的は一致しています。新しい情報は必ず共有してください。こちらも連絡します。」
は黙って頷き、手首につけられたデバイスを見た。宜野座の手にも似たようなものがついている。良い気はしなかった。席を立つと誘導される前にはドアの前に立った。
「帰る。分かったら連絡する。」
常守はドアを開けて彼女を出した。