第11章 楽園事件:2
ラボのある建物は直後に爆発が起きた。患者の反乱も想定内だったということか。他に子供もいなかったのですでにどこかへ移ったと見られる。引っ越しはこれが初めてでもない。
「その後、その阿頼耶との接触はできたのですか?」
静まる取調室の中。常守はようやく質問にこぎつけた。
「一回だけ。でも逃げられた。」
「次の居場所の検討は?」
「全く。あの港にいた男が鍵だったのにあなたちの銃が木っ端微塵にした。」
「すみません…。他に手がかりは?」
「私たちは目と鼻で探すしかない。」
「阿頼耶は基本的に廃棄区画にいるとも限らないですか?」
「私たちは動物因子が染み付いたおかげで色相が測れない。きっと阿頼耶はどこにでもいける。」
それなら街中の防犯カメラのデータで姿を確認し、場所を絞るのが妥当か。しかし阿頼耶真という人物は厚生省のデータベースにも載っていない。偽名か、もしくは無戸籍者である可能性が高い。
「私達も顔が分からない以上、街中のカメラに検索をかけることもできないですし…」
モンタージュ。という方法があることにはある。かつて常守も行った方法だが推奨はできない。というより本人が望みでもしない限り選びたくない。
「阿頼耶も化身するのか?」
宜野座はふと疑問を投げかける。化身という不思議な能力を持つ者たちに対してどのような対策をとるべきかも考えなければならない。
「阿頼耶は猫。」
「猫!?」
宜野座も常守もただ驚く。可愛く丸くなる猫しか思い浮かばなかった。それはにも伝わったようだ。
「猫って、人が飼うようなのとはわけが違う。どうして犬は大型犬でもペットとして飼えるのに猫は小さいままだと思う?」
現在ペットの飼育には資格が必要とされていられる。愛犬のいる宜野座だからその意味はすぐに理解できた。犬は忠実だが猫は違う。犬より爪や牙も鋭い。
「大型の猫は猛獣と同じ…となると成人男性の座高が仮に90センチだとして、それが体長に比例するということか。」
「結構大きい猫ですよね…。」
猛獣を野放しにしたも同然の状況ということになる。だがわざわざ人を襲うことはしないと思うとは言った。あくまでも阿頼耶の思想は同士を増やし、楽園を作るということ。ただしまだ研究の完成には至っていないと思われる。ならばその為の犠牲は増えるだろう。