第11章 楽園事件:2
仲間に連絡と言っても通信手段を持たない。
電話を貸そうかと常守が提案するもそれも断る。なぜなら相手も何も持っていないからだ。
それでどうするのかと聞けば兎に角外に出たいという。なるべく高いところというのでヘリポートに連れて来た。
陽は既に落ちているがホログラムネオンが闇を飾っている。
は目を閉じて深く息を吸った。胸を膨らますように吸ってゆっくりと吐き出す。追い風が吹いた気がした。
は踵を返して常守たちの方へきた。暫く黙って立って視線を交わす。どうやら連絡とやらが終わったらしい。ワイルド過ぎて気が付かなかった。
「では、ご案内します。」
は変わらず黙ったまま常守の後を付いていった。
「あの、変なこと聞いてもいいですか?」
エレベーターの中、は目だけを常守に向けた。そのギョロリとした目にどこか恐ろしさを感じる。
「今のってどうやって連絡したんですか?」
そう聞けば今度は視線を落として肩で溜息を吐く。そんなにつまらないことを聞いてしまったのかと心配になる。
「ニオイを風に乗せた。あっちは鼻が効くから私の居場所はニオイで測れる。」
一体その仲間は何に化身するのだろう。野生的な交信手段に唖然とする常守。エレベーターのドアが開き長い廊下を行き取調室に入った。
宜野座が部屋の前で待っていた。小さな窓で中が見えるようになっていて、その内側はマジックミラーだ。にとっては息が詰まる空間だった。
小さなテーブルを挟んでと常守は向かい合って座る。本来なら常守の後ろに控える宜野座だが今回は二人の間に立った。の緊張を少しでも解きたかった。
「では、いくつか質問を…」
「時間の無駄です。こちらが話します。」
は改まった口調でしかし威厳を伴って言った。常守ですらやや圧倒される。
「こちらの話を聞いてもらった上で、質問があればお受けします。いいですか?」
「わ、分かりました。お願いします。」
は常守を見据えたまま話した。
「私達が追っているのは、阿頼耶 真(あらや まこと)という人物です。私達はセンセイと呼んでいた…。」
センセイ。それは狡噛の資料にもあった不明なキーワードだった。