第11章 楽園事件:2
「公安局の支配下で何が自由だっていうの?自由は自分で手に入れる。」
「でも、シビュラに感知しきれない獣と化したあなたを放ってもおけない。この街の人は予想外の事になれていないから、さんの姿を見てサイコパスを濁らせる人だっているんです。」
「………。」
は一歩引いて口を噤む。
「お願いします。まずは話を聞かせてくれませんか?」
常守は真っ直ぐに見つめる。は眉間に皺を寄せたまま一度目を閉じた。暫く沈黙が続く。
「…狡噛さん…。」
「え?」
「狡噛さんを呼んで。」
「それは…。」
常守は困ってつい宜野座を見た。するとの視線は常守から宜野座へ移る。気まずい。ただそれだけだった。
「狡噛は…いないんだ。」
は特に表情を変えず黙っていた。
「あのあと、執行官落ちして、」
執行官と聞いては目を丸くする。
「ある事件で犯人を殺してそのまま逃走した。」
ついこの間の出来事だ。常守も宜野座もようやく受け入れられた事実だった。
「あの真面目な狡噛さんが…」
それがの印象だったらしい。真っ白な睫毛を伏せて思い出から最後の彼の姿を思い出しているようだった。
「がいなくなったあとも、あいつは一人で随分と探し回ってたんだ。」
「…私を?」
「突然いなくなったんだろう?ショックだったんだろうな。」
それは資料を見れば宜野座には分かる。バラバラで一貫性のない単語の羅列ばかりのような資料には彼の真剣さと焦りが垣間見えた。あとは彼女のことで最後に会話した内容を考えれば当然か。あの日の狡噛の機嫌の良さときたら、が知っていたらどうしただろうか。
俯いて黙り込むは思い立ったように顔を上げた。
「わかった…。」
「?」
「でも協力するのはそっち。それでいい?」
「構いません。ありがとうございます。」
常守の表情は安堵していた。は感情が表情に出ない分どう出てくるのか内心焦っていただろう。
宜野座も昔のように彼女が暴れ回らずに済んで安心した。
「では取調室でお話を伺いますので、ご同行をお願いします。」
「その前に仲間に連絡させて。きっと心配してる。」