第11章 楽園事件:2
はゆっくり体を元の位置に戻すが眉間に寄せた皺は元に戻らなかった。
警戒を解かず、じっと静かに宜野座を睨む。小さな部屋の中の空気が一瞬にして張り詰めた。
「、俺を覚えているか?」
今日何度同じ質問をしただろう。まともに返せてももらえないあたりそろそろ諦めかけていた。彼女が首を傾げたので覚えていないのが濃厚か。
「…ギノさん?」
「そうだ!」
記憶から絞り出したように呼ばれた自分の名に必要以上に反応してしまう。記憶に残っていたことが嬉しかった。
だが正解をだしてもは変わらず疑問が残る表情。これでもかなり緩んだ。
「随分、感じが変わりましたね。」
眼鏡のせいか。
「俺もいろいろあったんだ。それより感じが変わり過ぎなのはそっちだろう。」
「そうですか?それだけ経ちましたかね。」
そういう問題でもない。宜野座の記憶の中のは黒い髪で地味な少女だった。それが今は真っ白。髪から眉毛、睫毛まで白い。瞳の色も日本人離れしている。
「いや、なんでそんなに白くなった?」
「メラニン異常だって聞いてます。」
「聞いてる?誰から?」
「それは…」
話の途中でドアがノックされた。常守だった。ドアの外から「入ってもいいですか?」と声がする。宜野座は一度を見て、自分の上司だから安心するように伝えてから許可した。
常守は現場とは打って変わって柔らかな笑顔だった。彼女を怯えさせないためだろう。それでもは最初の時のように眉間に皺を寄せていた。
「初めまして、常守朱です。さんですね?」
は小さく頷いた。警戒を解かない様子に常守は彼女が拘束されたままなことに気がつく。直ぐに通信で外のシステム管理者に拘束具を解くように指示し、間もなく外された。
は痛めた手首を押さえていた。
「すみません、こちらも状況が掴めず念には念を入れさせていただきました。」
「早くここから出して。」
「もちろんです。そのためにこちらの事情聴取に応じてくれませんか?あなたは臓器の密売人と接触していた。公安局としては放っておくわけにもいきません。」
「私は密売を止めようとしただけ。これでいい?早く戻らないと仲間が心配する。」