第11章 楽園事件:2
宜野座は医務室に居た。目の前には逮捕というより捕獲したが横たわっている。強化ガラスの壁で仕切られたこの部屋は主に怪我を負った容疑者の収容に使う。いつ目覚めて暴れだしてもいいように、いざとなったら催眠ガスが放射されるようになっていた。本来は部屋の外で待つのだが宜野座は中に入って、側の丸椅子に腰掛けて彼女が目覚めるのをずっと待っていた。
眠っている姿は普通の人間に変わりはない。だが輸送する前、彼女の腕から羽根はボロボロと抜け落ち、いつの間にか手指が元に戻っていた。脚もそうだ。骨と皮だけになって鋭く大きな爪が飛び出た脚も人のそれに戻っていたのだ。それも含めて唐之杜が現在調べを進めている。
宜野座は義手を押さえた。彼女の脚の爪で捕まえられた時の握力ときたら相当な力だった。義手はそれを形どったかのように凹みがある。恐らくもっと力はあったはずだ。だが腕が凹んでいく瞬間に彼女は力を緩めた。本当は握りつぶすこともできたのではないか。それをしないのは特別危害を加える気はなく、あくまでその場から追い払うための威嚇に過ぎなかったと考察する。
常守は報告書の作成に上層部への報告もあるので後程顔を出すと言っていた。特殊な人間を捕まえたわけだが彼女なら上手くやってくれるだろうと宜野座は信じている。信じてはいるが。まさか殺処分なんてことにならないか心配でならない。そうなったらどうにかして彼女を逃さなければならない。考えれば考えるほど頭が痛くなる。その時、部屋に設置されたスピーカーから唐之杜の大きな呼び声が聞こえてハッとした。
が目を覚ました。
「…」
立ってより近くから見下ろすとの瞳が宜野座を捉えた。彼女の緑がかった黄色の瞳は印象的だった。
そう思ったのも束の間。素早い蹴りが飛んできた、が脚の拘束具がそれをさせない。拘束されている、そう気がついて自分の体のどこが動くか目視で確認していた。だが腕も大きくは動かせない。上体が起こせない。は鋭く宜野座を睨み犬歯をみせて唸り声を上げる。それはもう人の姿をしていようが獣と同じだった。
宜野座は一瞬その異様な姿に怯んだが、それでも記憶の中の彼女を呼び起こしもう一度呼びかける。
「、落ち着くんだ。暴れなかったらすぐそれは外してやる。」