第10章 楽園事件:1
「やめろ!」
咄嗟に宜野座は叫ぶ。人に対してデコンポーザーが反応することはまず無いはずだが、ドミネーターはエネルギーを凝縮した。
白は霜月から素早く離れ、ドミネーターから放たれたエネルギー弾は彼女を掠りもしなかった。
「、だろ。覚えてないのか?」
「うぅ…」
と呼ばれる白の女は唸り声をあげて今度は宜野座に向かってきた。姿勢を低く保ちフェイントをかけながら突っ込んでくる。振り上げる手を義手で防ぎながら捻じり、もう片方の腕も拘束。それでも全身で暴れるので力が入らずすり抜けられそうになる。
「宜野座さん!」
常守たちが追いついた。宜野座が拘束する女にドミネーターを向けるが確かに反応しなかった。まるで居ないものと扱われている。それが霜月のドミネーターは脅威と示し変形を解かない。
「常守!こいつは保護する!」
叫びながらも女の方は宜野座の手をすり抜けて噛み付こうとしてきた。それを顎を押さえて防ぐ。
「狡噛がずっと探してたんだ!」
「!」
常守はドミネーターを下ろしてホルスターに戻した。
「霜月さん!打たないで!宜野座さん!!」
代わりにスタンバトンを取り出して宜野座に投げた。それを受け取ろうとするが女の方が先に弾き返した。
一度宜野座から距離を取って、鋭い目でぐるりと周りを見渡している。宜野座がスタンバトンを取りに動こうとすればすかさず視線を向けるので思わず体が硬直した。
緊迫した空気が流れている。
遠くで犬の遠吠えが聞こえた。するとと呼ばれる白の女は空を切るように両腕を払った。と同時に目の前を羽根が舞う。宜野座には何が起きたのか一瞬理解できずに停止していた。彼女の腕が伸びて羽根が飛び出し大きな翼が現れたのだ。その羽根は引き継いだ資料に含まれていたそれにとても良く似ている気がする。
目の前で確かに人から翼が生えたのにまだ信じられない。彼女の脚も踵から先が伸びて骨のように細くなり鋭い爪が生える。ワンピースの中も見えないがもぞもぞと動いているので変形しているのだと分かる。
そして完全に変形しきる前に飛び立ち、旋回すると鋭い爪を突き出してかかってきた。腕と脚は鳥のそれなのに顔はまだ人間なのが不気味だった。宜野座はその脚を義手で防ぐが恐ろしいほどの力で腕を掴んできた。