第10章 楽園事件:1
追跡するドローンが常にデータを分析室に送る。
雑居ビルの多い小さな路地に入った白は封鎖したドローンに行く手を阻まれたが、ビルに張り付いた配管を蔦って上に登った。
「また上に逃げるわ!」
「了解!霜月さん!宜野座さん!」
二人はビルの屋上から向かっていた。建物の間が狭いため簡単に飛び越えていける。確かに上に逃げる方が簡単だ。
霜月と宜野座は壁を登ってきた白を目視できるところまできた。痩せていて髪も衣服も白い。槙島を連想してしまう。
「公安局刑事課だ、止まりなさい!」
霜月のどすの聞いた声が響き渡るが白は止まらなかった。
まるで草原を走るかのように軽やかにダクトだらけの屋上を駆け抜けていく。そしてビルの細い隙間に入っていった。下は隣同士がくっついているのに上だけ隙間があり、まるで隠し通路のようになっている。
その中を霜月も入っていく。狭すぎて細身の女性までが入れるほどの所だ。宜野座では厳しい。周辺を見渡すと非常用の梯子がさらに上へと伸びていた。
「俺は上から回る。霜月監視官が先行している。」
「私達も向かいます。唐之杜さん。」
「はいはーい。」
常守は唐之杜から示されたルートに変更。宜野座はさらに高いビルの屋上へと登り真っ直ぐに突っ切る。それも終わりが見えだした。足場がなくなるとそこは開けていて、周りのビルの高さも平坦で陽が差している。
真っ白なコンクリートの上に真っ白な対象と霜月監視官が対峙していた。だが威勢のある彼女の様子がおかしい。いつもなら直ぐ執行しかねない状態のはずなのに何も起こらない。
宜野座は錆びて崩れそうな階段で下へ降りた。
白は振り向く。やはり女だった。ボロボロでやや黄ばんだ膝下丈のワンピースはサイドが裂けていてスリットのようになっている。
昔の面影はほんの少しだけあった。
「…だな?」
白い女は表情を変えない。寧ろ目つきはどんどん鋭くなりテリトリーを侵された獣のようになる。
女は霜月の方を向くと素早く間合いを詰めて飛びかかった。
霜月は声を出すこともできずに後ろに倒され頭を押さえつけられる。ドミネーターはやつの胸に当てられている。だが何も言わない。
「な、んで?」
どうして何も言わないの?何故反応しないの?
それが女が手を振り上げた途端、ドミネーターは動き出した。
『執行モード デストロイ・デコンポーザー』
