第10章 楽園事件:1
あの高さ、怪我では済まない。うっかり声を上げそうなのをどうにか抑える。飛び降りた方は犯人に飛びかかり衝撃を利用して踏み倒していた。大した運動能力だ、よろけることもない。
「まずい!盗られる!」
宜野座はドミネーターを向けた。思考音声が犯罪係数を示す。
『犯罪係数ーオーバー300ーリーサルエリミネーター』
ドミネーターは変形し青い閃光を対象に放つ。トランクケースを持っていた方が破裂した。ケースは血の海に投げ出される。その赤黒い中で白の存在は目立った。宜野座の位置から常守が駆け寄るのが見える。ドミネーターを向けたまま投降を呼びかけていた。
だが白は逃げ出した。常守が先行し、宜野座もコンテナを飛び降りて後を追う。
下に降りて気がついたが奴は靴を履いていなかった。素足が地面に血のスタンプを押していた。大きさからして恐らく女。宜野座はなんとなく嫌な予感がした。
彼女を追う常守は日頃ランニングマシンでも鍛えているのだがそれでも距離がなかなか縮まらない。その上迷路の用な通路と、無造作に積まれたコンテナが阻む。白はここをよく分かっているような動きを見せた。
積まれていないコンテナに飛び乗り、さらに上に登っていき、廃棄された大型のクレーンに飛び乗りそれを足場にさらに高いコンテナに飛び乗って見えなくなった。
「唐之杜さん逃走ルートの検索を!」
「ルートもなにもないわよ!道じゃないとこ走ってるんだから…」
確かにそうだ。でも決まった逃げ道へ向かったかのような動き。でなければあんなに身軽に動けるわけがない。
考えている間に追いついた宜野座がいう。
「やつにはドミネーターが通用しないかもしれない。」
「え、免罪体質者ですか?」
「わからん、だがさっきドミネーターを向けたときあれだけ二人は至近距離にいたのに奴には反応を示さなかった。」
「宜野座さんの狙いが良いってことも考えられますよ。」
「油断するなということだ。」
「…はい。」
常守は心配性の宜野座に呆れながらも微笑んだ。
そういうところは執行官になって余計増えた気がする。
「ルートでたわよ。ターミナルの東側に雑居ビルが多いからかこっちに絞るわ。ドローンで周辺封鎖。一台が追跡中。」
送られてきた逃走ルートを確認し、常守は最初に分けた二人一組での追跡を指示した。