第8章 追憶の炎、消えぬ黄昏
「私はオムライスにしようかな。杏寿郎はなににする?」
「むう···! さつまいもご飯がないな」
「和食屋さんのほうがよかったかしら······あ、でも見て。甘味にさつまいもの"いももち"があるみたい」
「なに構わないさ。ならば食後にそれを頂こう。ハヤシライスを頼む!」
「そういえば、杏寿郎は昔からさつまいもが大好物だったものね。食べるときはいつもわっしょいわっしょい言って」
「よもや俺はそんなことを言っているのか!」
「え? 自覚なかったの?」
「ない!!」
キリッとした顔で当然のごとく言い切る杏寿郎があまりに愉快で、星乃は込み上げる笑いを堪えきれず吹き出した。
二人が足を運んだのは近場にあった洋食屋。
注文を終えしばらくすると、オムライスとハヤシライスがテーブルに並ぶ。
ウエイトレスの肩で靡いた真っ白なエプロンの大きなフリルを流し見たあと、星乃は両手を合わせ心のなかで「頂戴します」と唱えた。
次いで、杏寿郎も掌を合わせる。
「···うまい!」
杏寿郎が叫んだ。
店内で食事をしている客が一斉に杏寿郎に注目する。
モダンな服装に身を包んだ老夫婦。一人本を片手にコーヒーカップを啜る青年。ウエイトレス。
皆奇異な目をしていたが、星乃は気にしないことにした。
ハヤシライスはみるまに「うまい」を繰り返す杏寿郎の胃のなかへ収まり、「たまには洋食もいいものだな」との言葉が発せられた頃、皿の上はすっかり空っぽになっていた。
星乃はようやく三口目のオムライスを口にしたばかりだというのに。
「聞きそびれていたが、星乃はなぜこの町にいる」
お代わりのハヤシライスをスプーンで掬い上げながら、杏寿郎が聞く。
「実は、もうすぐ実弥の誕生日だから贈り物を探しに来たのだけれど、なかなかしっくりくるものが見つからなくて」
"さねみ"という名に、時の間杏寿郎は宙を眺め、すぐ様「ああ、不死川のことか!」と頷く。