第7章 愛の謂れ
めそめそと、蜜璃はすすり泣いていた。
まさおの悲劇のその後のこと、星乃と蜜璃は各々隊服に着替え直し、まさおは返された試作品 (ただし星乃と蜜璃が着たものは破り捨てられた) を背負ってとぼとぼと帰路に就いた。魂が抜けたような双眸をしていた。
「···悪ィと思ってっから、泣くな甘露寺」
「だって、だって、扉が」
「蜜璃ちゃん······本当にごめんね」
「星乃ちゃんが謝ることないよ! せっかく、せっかく、二人で楽しくお茶してたのに、もう、台無しだわ!」
テーブルの上に突っ伏して、蜜璃がわあんと涙を流す。
「知り合いに腕のいい大工の棟梁がいるからよォ、元の通り直せねェか頼んでやっから」
「···本当?」
「あぁ。だからもうめそめそすんじゃあねぇよ」
「でも、せっかくのパンケーキが冷めちゃった」
「蜜璃ちゃん、このパンケーキ冷めてもとっても美味しいわ。ね? ほら実弥も」
「いいや俺は」
いらねぇ、と口にしかけたところで星乃のじとりとした視線を察した。
『これ以上蜜璃ちゃんを悲しませないで』という無言の圧力。
さすがの実弥も今回ばかりは大いに後ろめたいものがあるので、『食やァいいんだろォ』と目配せし星乃の皿から頂戴したパンケーキをひとかけら口に放った。
──甘い。
星乃のパンケーキには蜂蜜がたっぷりと染み込んでおり、旨いと言えば旨いのだが、これは少々甘味がキツイと実弥は思う。
やはり、おはぎに勝るものなし。あんこの程よい甘さが自分には丁度良い。
「······旨いと思うぜェ」
「ほんとおぉ、よかったあ!」
今泣いた烏 (からす) がもう笑う。
甘露寺が呑気な奴で助かったぜェ···と、実弥は心中でほっと胸を撫で下ろした。
「泣いたらお腹が減っちゃった」
涙を拭い、パンケーキを三枚一気に手前の皿へ移した蜜璃は喜色満面。ど、れ、に、し、よ、う、か、な。で選んだいちごジャムの瓶を開け、果肉のたっぶり入った真っ赤なそれをパンケーキに盛り付けた。
普段は緑茶か抹茶しか口にしない実弥。せっかくなので出された紅茶を一口啜る。
砂糖もなにも加えずに飲んだ紅茶は渋みが強く濃かったが、意外にもイケんじゃねぇか。そう思った。