第6章 甘い蜜にはご注意あれ
『星乃は身のこなしが雅やかよねえ』
『え? 急になあに』
『まるで琉金が水中を滑らかに泳いでいるみたいだわ』
『リュウキン···?』
『尾びれの長いのが特徴の金魚なの。とっても綺麗よ』
『ふふ。そんなこと初めて言われたわ。カナエってば、相変わらず言うことが変わってる』
『あの悠然と泳ぐ姿を見ているとなんだか気持ちが落ち着いて、悲しみが和らぐの。こうやって星乃と過ごす時間だってそうよ。辛いことがあってもまた心を取り戻せる。だから、星乃にはいつも感謝しているの』
『···そんな···カナエに支えられているのはいつだって私のほうなのに···。カナエがいてくれることがどんなに心強いかしれないわ。柱として隊を支えるカナエを尊敬しているし、カナエの笑顔を見るとほっとする。だから時間ができるとこうしてカナエに会いにきてしまうのね』
『ふふ、私もおんなじ。やっぱり気が合うわね私たち』
『でもどうしたの? 突然改まって』
『そうだわ、今日はね、星乃に受け取ってもらいたい物があって』
『え、これ···って』
『帯と帯留めよ。帯の色は、濃紅葉っていうんですって。きっと星乃に似合うわ』
『っ、まって、こんな立派なもの貰えない。だってこれ、お母様の形見なんじゃ』
『だからこそ貰ってほしいのよ。私の、大切なお友達に』
『···カナエ』
『ねえ、今度、浴衣を着てみんなで縁日にでも行きましょうよ。しのぶやカナヲ、粂野くんや不死川くんも誘って』
『実弥は来るかしら···?』
『あらあ、星乃が誘えばきっと来るわよう』
『そんなこともないのよ。去年だって匡近と何度もしつこく誘ってようやく連れ出せたんだから』
『あ、そうだわ。柱のみんなも誘っちゃえばいいんじゃなあい?』
『柱の···!? そ、そんなのだめよ、緊張しちゃう』
『なにを緊張することがあるの。柱だって、みぃんな普通の人たちに変わりないんだから』
『それ、カナエが言ってもあまり説得力がないような』
『うふふ、わくわくするわねえ。きっと楽しいわ。約束よ、星乃。絶対』
『そうね。行けたらいいわね』
『はい、指切りげんまん』
『もう、カナエってば』
───はい、約束ね。
ゆびきりげーんまーん───…