第5章 出藍の誉れ
その選択が正しかったどうかはわからない。
まだ戦える身であるのに退くのかと、非難する仲間もいた。
それでも、子供たちの笑顔に触れるたびこれでよかったのだと心から思えた。
あのまま戦いを続けていても、自分はどこかで命を落としただろうから──。
『死ぬな』
実弥は林道の言葉を頭の中で反芻 (はんすう) していた。
鬼舞辻無惨を倒すまでは死ねない。死ぬつもりもない。されども明日あるかどうかもわからぬ命に変わりはない。
血の繋がりもない一弟子の身を案じてくれる師の人情深さには、感謝と敬慕の情が尽きない。
実父の記憶は拳や下肢を振り下ろしているものしかなく、師に対しこんな想いを抱くのはおこがましいことと心に留めながらも、しかし、実弥にとっての林道は実の父親よりもずっと父親のような存在だった。
世話になったぶんいつか恩返しができたらいい。
実弥は、そんな想いを常時心に秘めている。
ただ、今は───…
「鬼狩りに命を懸ける。そこに、後悔はありません」
やるべきことを、全うする。
今の自分にはそれしか生きる術がない。
林道に向かって実弥は深く頭を下げた。
師の望んだ返答ではないだろうという詫びいる気持ちも込めての長い黙礼。
その間 (かん)、林道からの返事はなかった。
「······実弥、頭を上げなさい」
間を置いて、実弥は再び林道と向き合った。
「そろそろ行かねえと、飯が冷めちまうなあ」
肩の力を抜くように、林道は口を綻ばせた。
白米や、味噌の芳醇な大豆の香り、焼いた魚の香ばしさが実弥の腹の虫を疼かせる。
箱膳を前にした星乃とキヨ乃が、自分たちを今か今かと待ちわびている姿が眼裏に浮かぶ。
「情けねえところを見せちまって、すまなかった」
「······俺も、星乃には、永く年老いるまで生きてほしいと願います」
実弥を見つめ、どこか愁いを帯びた笑顔を落とすと、「そういえば」
再び視線を上へ引き上げ、林道は言った。
「なあ実弥、弟は元気なのか?」