第26章 番外編 ② 或る風の息吹の
使えるもんはなんでも使う。それが実弥のやり方だった。
家にあった斧 (おの) や鉈 (なた) 、道端に置き去りにされた鎌やつるはし、もう使わないからと貰い受けた鉄鎖 (てっさ) など、とにかく戦闘に役立ちそうな手具足をかき集めてなりふり構わず武装した。
陽が傾きはじめると、全身の血が滾り出す。怒りだ。憎しみだ。家族を奪われた日がまるで昨日のことのように鮮烈に眼裏を蹂躙する。
狩りに出れば朝まで血眼になって鬼を探す。見つけたら陽光の当たる場所に縛り付けて固定する。朝日が鬼を散り散りにする瞬間だけが、実弥自身が存在しているという確たる証明のようなものだった。
それでも鬼が消え失せたとたん、再び焦燥が纏いつく。
幾度となく押し寄せてくる激情。神経は常に高揚し、日没から夜明けまで体力を駆使して翌朝を迎えても、実弥の身体は疲労の感覚を知らなかった。
眠くならない。腹も減らない。
動くために必要な最低限の食を摂取するだけの日々。
日銭を稼いで様々な土地を転々と渡り歩く。
治安の悪い場所に出向くことが多かった。家もなく、道端に寝転がっている人間が一人消えたところで気に止める者は誰もいない。実弥の知る鬼はそういう場所に出現する確率が高かったからだ。
不穏な噂を耳にすれば一散に飛んでゆき、目的の鬼を見つけ出して殺すまで、どこまでも、どこまでも、執念深く追いかけた。
匡近と出会ったのは、そんな生活を半年ほど続けた頃だったろうか。
同じ鬼を追っていた。
夜夜中、一足早く目的の鬼と対峙していたのは実弥だった。
「···そぅかそぅかあ~、近頃ごの俺を追っがげまぁしでる鬼狩り風情のガキとゃらぁお前だっだがぁ~ヒヒ。随分ど物騒なモン背負っだナリじてるみでぇだが、そんなもんじゃあ俺は殺ぜやじないんだぜ~ヒヒ」
まるで、異なる色合いの布地をいくつも繋ぎ合わせたような、つぎはぎだらけの皮膚をした鬼だった。口が耳まで裂けているせいか、どうにか聞き取れるほどの、巧く舌を回せない様子の口調で鬼は言う。