第23章 きみに、幸あれ
( ここは······どこだァ······? )
うっすらと目覚めた先に、花畑と青天井はなくなっていた。視覚も聴覚もどこかまだ薄い膜がかかっているようで、夢と現の境界が曖昧な風に感じる。
次第に映し出されるものが鮮明になってくると、薬品の匂いに混じって甘優しい蝋梅の香気が臓腑を撫でた。
馴染みのある内張りの白い部屋。そして、白い寝具が身体を包み込んでいる。
誰かに名前を呼ばれた気がして、今しがた声がしたばかりのほうへと首を傾けようとしたところ、なにやら器具のようなもので首をがっちり固定されているらしく、意のままに動かない。そのうえ少しでも身体に力を加えようとすれば、あらゆる箇所に激痛が走った。
どうにかして目線だけを滑らせる。
包帯の巻かれていない左手には、ぬくもりを感じた。
「─っ、実弥······っ」
ガタ、ガタンッ。
床を擦るような物音が耳に触れ、左手にぎゅっと力が加わる。
覗き込むように姿を現した人物に、実弥はにわかには信じがたい心地で双眸を見開いた。
「────…星乃······?」
思わず名が零れ出る。
まだ夢の中にいるのかという実弥の探るような眼差しを、星乃は気遣わしげに窺っていた。
「ま、待ってね···っ、いま誰か呼んで、きゃっ」
ガタン! と再び派手な物音が響く。
「痛、」
寝台の下から小さな声がし、ああ、またドジ踏みやがったなと悟る。何をしてやがると手を差し伸べてやりたいところだが、情けないことに起き上がれない。
無惨との決戦を終えた今、これまでの怪我とは比べ物にならぬほどズタボロに、自分の身体が朽ちていると感じた。
オイ大丈夫かともう一声を振り絞ろうとしたときだった。
「ん? 飛鳥井? どうしたよンなとこに座り込んで、···って、不死川!? おまっ、目覚めたのか!?」
「っ、宇髄さ」
「あああ、飛鳥井、無理はすんな。今ちょうど町医者が来てて冨岡のとこにいるから俺呼んでくるわ」
「すみませ···」
「転んだのか? 立てるか?」