第21章 消息の途切れ
山脈の向こう側に小さな雪雲の端が見えた。
夜空には所々に星が点在しているものの、間もなくこの集落にも雪が降りだすだろう冷えた空気が流れてきている。
星乃のひたいに掌を添え、「少し熱ィな」と実弥は言った。
「たいしたことないわ。風邪なんて長いこと引いていないもの」
「いいから今日は早く休んじまえ。今生姜湯を作って持ってきてやる」
「そう···? じゃあ、お言葉に甘えさせてもらうわね。ありがとう実弥」
寝間の布団の上で微笑む星乃に「ん」とだけ返事をし、実弥はそのまま厨へ向かった。
星乃の顔色が幾分か良くないことに気がついたのは、鍛練を終え屋敷に戻ってすぐだった。
星乃はけろりとしているが、時期が時期である。
ここ数年は冷害で寒さの厳しい冬が続いている。たかが風邪だと見くびっているうちに悪化させ、そのまま帰らぬ人となる隊の者も少なくない。
身体を温める飲み物でも作ってやろうと笊籬 (いかき) から生姜を取り出す。そのときだった。
カアアッ!!
実弥の鴉、爽籟の鳴き声が屋敷の上空に轟いた。
「緊急招集!! 緊急招集!! 産屋敷家襲撃!!」
ゴトン······!
手にしていた生姜が落下する。
「────実弥!!」
日輪刀を手に素早く屋敷から飛び出すと、実弥に続き星乃も機敏に戸外に姿を現した。
「星乃テメェは来んじゃねえ!! 屋敷にいろ!!」
「っ!? どうして···っ、──嫌よ聞けないわ!」
「鬼舞辻だ!! 産屋敷邸が襲撃された!! おそらく今晩総力戦になるに違いねェ!!」
「ええ承知のうえよ! お館様の安否だって気がかりだもの! 私も行かなくちゃ」
「今のお前じゃ足手まといになるだけだ!! ひっこんでろ!!」
「身体の具合なら問題ないわ! 戦える! 私も実弥と一緒に」
「星乃!!! 俺は!! お前には死んでほしくねェんだ!! わかってくれ!!!」
「だ、って···! 私、動けるのよ···っ、戦えるの···っ! この状況で私だけ戦わないなんて、そんなのありえな──」
「!?」
「···っ、?」
「ッ、オイ星乃!!」