第17章 この指とまれ
ここに来い、とでも言うように、実弥が掌で縁板を静かに叩く。
腰を上げ、一歩半。
星乃は実弥の傍らへ寄り、招かれた場所へ臀部を下ろした。
両脚を同じ向きへ折り横座りする。そこへ、ごろん、と実弥の頭が転がった。
( え、──え、? )
見下ろした先、長い睫毛が一度だけまたたく。
下肢に伝わる重み。体温。髪の感触。
これは。
( ────! )
いわゆる、膝枕というものだった。
ぼぼぼ···っ。
首から上を赤く染めた星乃の頭頂から湯気が立つ。
「おい、んな真っ赤っかなツラすんじゃねェ。こっちまで無駄に尻がこそばゆくなんだろうがァ」
「だ、だって、こんな突然」
「甘ろっつったのは、お前ェだろう」
「そ、そうだけど、まさかそうくるとは、思っていなくて」
思わず両手で顔を覆った星乃に対し、実弥の口から軽度な不平が零れ出る。
仰向けに寝転んだ実弥は腕を組み、立てた膝に片脚を交差させているせいか、星乃の目線よりも下にいるはずなのに心なしか圧が強い。とはいえそれも実弥お得意の照れ隠し。
内心甚だ照れくさい思いをしているのは実弥もまた同じなのである。
「···嫁の膝枕は、派手に気持ちがいいんだと」
「嫁の···って、音、柱様···?」
下からそっと手を伸ばし、人差し指の背で星乃の輪郭をくすぐる実弥。
次第に、星乃の頬から熱が引いてゆくのが伝わる。
実弥は「ああ」と柔い眼差しで相槌を打ち、以前、訊ねてもいないのに嫁の話をしはじめた天元の言葉をふと思い出したのだった。