第17章 この指とまれ
人生をどう生きるかは、自分次第だ。
幸福を決めるのは、己の心だ。
紡がれる一言一句に、星乃は唇を結んでうん、うん、と首肯 (うなず) いた。
どんな人生を選び取っても、実弥は己を蔑むような生き方をするつもりはないのだろう。それが実弥の真心であり、あるいは家族の望みでもあるとわかっているからだ。
そんな実弥の生き様を、不幸せと思うはずもない。
零れかけた涙をすんでのところで押し込める。
滲んだ視界に蓋をして、厳しくも、励まされ続けてきた日々を思う。
ずっと、実弥に救われてきた。実弥がいなければ今の自分はここに存在していない。
匡近だったら、どうしてあげる···?
胸の内で匡近に問う。
実弥が私を守ろうとしてくれているように、私も実弥を守りたいのだと。
実弥の『想い』を、守りたいのだと。
──ううん。
( ···私は、匡近じゃ、ない )
問いかけるのは、己の心。
私は私の精一杯で、この先も実弥を支えてゆきたい。そう思う。だとしたならば答えはでている。
実弥の隣を歩くのならば、私も、強くあらねばならない。
「実弥がどんな道を選択しても······私はあなたを誇りに思うわ」
まぶたを開けば、晴天の青の深さに包まれているような錯覚に陥った。
手を伸ばせば触れられそうな群青。こんな日は、鬼という存在さえ嘘のように思える。
「──…痣を、出すつもりでいるのね」
切り出すと、実弥は驚いたように双眸を見開いた。
「···んで、それを」
「蜜璃ちゃんからの手紙に、彼女が痣を発現させたことが書かれていたの。文面から蜜璃ちゃんは痣がどういったものなのかまだわかっていない様子だったけれど、柱合会議でそのお話が出たんじゃないかと思って」
「お前は、知ってたのかよ···。痣のことを」
一呼吸おき、「ええ」と答える。
「代々鬼狩りを受け継いでいる家は、知識として痣のことを学ぶの。ただ、歴史上、痣を発現させた人物の手記が曖昧な部分もあって、次第に伝承が薄れていったと」
「ああ···俺は柱合会議ではじめて痣のことを知った」
「はじまりの呼吸の剣士たち以降痣者と呼ばれる人物が現れていないこともあって、私は既に途切れたものと思っていたのだけれど」