第11章 律呂の戯れ
実弥は度重なる遠出の任務で屋敷へ戻ることも儘ならぬほど多忙を極めた生活を送っていた。
緊急の柱合会議にて、担当地区の拡大が決定したのだ。
星乃はあの日以来一度も実弥と顔を合わせることのないまま、昼は鍛練に精を出し、夜は鬼狩りの任務へ出向くという変わらぬ毎日を過ごしている。
時折、実弥のことを考えては無事を祈った。
ふとしたときに、会いたいな···という気持ちが芽吹く。
それが日に日に大きくなってゆくことに、いつしか背を向けられなくなってきている。
「キャーッ!!」
蝶屋敷の庭からけたたましい悲鳴が聞こえたのは、実弥の誕辰から数ヶ月が経過したとある朝のうちだった。
星乃は健康診断でしのぶのもとを訪れていた。手土産のお茶菓子を差し入れに持ち、しのぶの妹たちを探していた最中のこと。
この時間、隊士の【アオイ】は庭で洗濯物を干していることが多い。
しのぶの継子の【カナヲ】は任務で留守にしがちなものの、看護師を努める【きよ ・ すみ ・ なほ】の三人娘は屋敷のどこかにいるはずだ。
妹といっても彼女たちに血の繋がりはなく、それでも仲睦まじく蝶屋敷で衣食住を共にしているしのぶの家族は星乃にとっても可愛い妹たちのような存在だった。
ともあれ今の悲鳴は看護師三人娘ではないだろうか。
不審に思い、叫び声のしたほうへと駆けてゆく。すると、大柄な男が二人の娘を抱えてどこかへ連れ去ろうとしている光景が双眸に飛び込んできた。
「っ、なにをしているの!?」
疾風 (はやて) のごとく騒ぎの場所まで移動する。
背中に大鎌らしきものを二本背負った男は民間人とは思えない風貌をしていた。
「「あ、星乃さん···!」」
星乃を見上げたのはきよとすみだった。となると、抱えられている娘はアオイとなほか。
近くには、青い顔をして立ちつくしているカナヲの姿もある。
「待って、その子たちを離して」
男は星乃の呼びかけに立ち止まり振り向いた。