第9章 【KoC】I FOR YOU 【金城剛士】
賑わう店内。ちょうどお昼をすぎたいまは、レジに並ぶお客さんの列が消え去り、店内のイートインスペースが満席になった頃だ。
「いらっしゃいませー!」
わたしはここ、マックのアルバイト店員。
学生の身で、週に2日しか働けないけど、同僚や先輩に良くしてもらって、楽しく働いている。最初の頃は慣れなくて自分のことでいっぱいいっぱいだったけど、最近は周りを見渡す余裕もでてきたところだ。
そして、そんなわたしが、密かに恋焦がれている、憧れの人がいる。今日も、ランチの波が去った、この時間に彼はやって来た。
「ランチのセットを1つ。テイクアウトで。」
ウルフカットの黒髪に、切れ長の紅い瞳が印象的な彼が頼むのは、決まって定番メニューのランチセットだ。わたしは慣れた手つきでタッチパネルを操作した。
(はぁ…今日も素敵。カッコ良さが滲み出てる。)
穴が空くほど見つめてしまう。きっと漫画の世界なら、私の瞳はハート型だ。
(いつも独りだし、わたしにもチャンスはあるよね…!!)
いつもそばに居てくれる、優しいお兄ちゃんに、たくさん褒められてきたせいか、わたしは謎に気合が入って、今しかないという、テイクアウト待ちのタイミングで、名前も知らない彼に声をかけた。
「あの。」
「…?」
「これ、私の番号です。お友達になってください…!」
周りはガヤガヤしているが、極力聞かれないようにトーンダウンして、彼にずっと渡したくて準備していた、名刺サイズの、4つ葉柄のメッセージカードを渡した。
「なっ。」
顔を真っ赤にして驚く彼。
わたしは勢いよく頭を下げた。
「お願いします!」
「…おう。」
彼は戸惑ってるようだけど、承諾してくれた。わたしは変な汗を沢山書いて、たぶん顔も真っ赤だ。けど、よかった。やっとずっと憧れてた彼に1歩を踏み出せた。わたしは清々しい気持ちで、あと30分のバイトをこなしたのだった。
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着替えて、店の裏口から出ると、なんと先程の彼が店の壁のコンクリートに凭れて佇んでいた。
「え?!」
「あぁ…さっきの。やっぱり、きちんと話してからじゃねえと、友達になるとか判断できねーから。待ってた。」
彼がこちらを見つめる瞳は、相変わらず深紅で美しく輝いている。そして、今日わかったこと。彼はとても真っ直ぐで、正直な人だ。