第1章 恋祭り【愛染健十】
今日は土曜日。いよいよ明日が祭りの本番だ。
仕事がお休みの人が多くて、今日の昼間は作業が捗った。
夜は宴会して、景気づけをするらしい。
わたしはお酒が飲めないので、明日の最終確認をすることにした。
「ゆかり。こんな所にいたのか。ボランティアで残業?」
「健十くん。残業ってわけじゃないけど。」
笑いながら手を動かす。
「健十くんはどうしてここに?」
「…ゆかりが居ないから探した。お前がいないなら行く意味ない。」
健十くんは柱に腰掛けて、帽子で顔を隠した。寝るのかな。
「いつも気を使ってくれて、ありがとう。」
「別に、そんなんじゃない。」
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1時間弱経っただろうか。健十くんからは静かな寝息が聞こえている。いつもお仕事で疲れてるもんね。
明日、神輿を担ぐ人や周りを歩く人の衣装や飾りを1人ずつに分けて包んで、綺麗に棚に置く。
なんとなく窓を見ると、Gが張り付いていた。
「!!キャーーッ」
「?!」
私の声と急な大きい音に驚いた健十くんは、飛び起きてしがみついてきたわたしを受け止めた。
「ゆかり?どうした。」
「け、健十くん。虫…」
「マジか……」
健十くんはキッ!と窓を睨んだ後、玄関に置いてあったスプレーを取り出し、退治してくれた。
「うそ…健十くん、虫ダメだよね?」
「俺も成長したの。それに、女の子の前で取り乱せないだろ。」
「そっかぁ……」
まだバクバクしている心臓。
成長した健十くん。
急に出てきた虫。
色々なことに混乱して、落ち着かせるように健十くんの胸から離れた後、逆に健十くんの頭をギュッと胸に抱え込んだ。
「け、健十くん。起こしてごめん。わたし、情けなくてごめん…」
「………」
健十くんは黙って動かない。
そのままの体勢で気持ちを吐露する。
「はぁ。びっくりした…怖かったぁ……まだ心臓バクバクしてる。」
「これ、誘ってる?」
気づけば健十くんの手が私の胸を掴んでる。
「ひゃっ!」
「ブラ、つけてないの?」
私の胸に顔を埋めたまま、両手で揉みしだいている。
「ちょ、ちがうからっ。」
カップ付きのシャツだから!!
健十くんの肩を押すけどビクともしない。
「あーあ。我慢してたのに。」
健十くんの吐息が胸にかかって、かぁっと身体が熱くなった。