第1章 はじまり
私はその人の隣で駆け回る犬たちを見ていた。
投げられたフリスビーを、競い合うように追いかけていく2匹が可愛くて思わず笑ってしまう。
視線を感じて横を向くと、その彼と目が合った。
「ここ、よく来るのか」
「家から少し遠いので頻繁には来れないんですけど、いい場所ですよね」
話しかけてきたくせに、それ以上会話が続くわけでもなくまた沈黙が続く。
ちらっと横目で見上げた顔はとても整っていて、柔らかそうな髪が風に揺れている。
かっこいいけど、取っ付きにくそうな人。それが第一印象だった。
結局、名前も知らないまま家に帰って来たのだけれど。
無愛想な感じとは裏腹に、アーサーと呼んだ子犬を可愛がる表情はとても柔らかくて何故かあれから何度も思い出してしまう。
あの湖に行ったらまた、会えるかな……。
………
(何やってるんだろう私)
昨日の今日でまた来てしまった。
会えるかも、という淡い期待を胸に。
しばらく歩いていたけれど、そんな偶然は何度も起こるわけはなく彼の姿はなかった。
「帰ろっか」
と、呟いた時リードがグンと引っ張られた。
「え?ちょっとどこ行くの?!」
引かれるまま進んでいくと。
背の高い草が途切れたところに昨日の彼が目を閉じて寝転がっている。
(お昼寝?)
起こしたら悪いと思いつつ、また会えたことに少しだけ心が弾んでいた。