【リヴァイ】いつか地平線を眺めるなら【進撃の巨人】
第85章 ◇第八十四話◇あなたが生きているだけで…【恋の行方編】
どれくらい唇を重ねていたかは分からない。
そっと重なるだけの唇から、リヴァイ兵長の体温を感じて、私はそれだけで安心できた。
そうしていると、唇が離れるーというよりも、重なりがずれていくみたいに温もりが消えていくのを感じた。
私が瞳を開けるのと、リヴァイ兵長の身体が崩れるように落ちて行くのは同時だった。
私の膝の上に頭を落としたリヴァイ兵長は、意識を失っているようだった。
さっきまで荒く息苦しそうだった息が、弱弱しくなっている。
「リヴァイ兵長…!?リヴァイ兵長、死なないで…っ。
いやだ…っ、死なないでっ。」
必死に名前を呼んだ。
身体を揺すってもいいのか分からなくて、私はリヴァイ兵長の頬を撫でた。
雨に濡れて冷たい私の手に比べて、リヴァイ兵長の身体は驚くほどに熱かった。
この雨で濡れたせいなのか、傷が熱をもったせいかは分からない。
私には、何も分からない。
リヴァイ兵長が、死んでしまいそうだということしか、分からなくてー。
「助けて…っ。誰か、リヴァイ兵長を助けて…っ。」
私には、泣くことしか出来なかった。
あの物語の結末が、騎士の亡骸に泣きながらキスをするお姫様の悲しい絵が、これからの私達の未来を予言しているような気がして怖くなる。
あの物語が、私を恐怖の世界に突き落とそうとしてくる。
違う。ここは、あの絵本の物語の世界ではない。
私はお姫様じゃないし、リヴァイ兵長は騎士じゃない。
だから、死なない。
死んだら、嫌だー。
「-----。」
「----------。」
小屋の外から人の声がした。
思わず、私は口を噤んで、耳を澄ました。
リヴァイ兵長は、誰かから逃げているみたいだった。
その誰かが追いかけてきたのかもしれない。
でも、ハンジさんが来てくれるとも言っていた。
ハンジさんであることを願いながら、必死に耳を澄ますけれど、雨の音が五月蠅くて、誰かが喋っているということしか分からなかった。
そしてついに、小屋の扉がゆっくりと時間をかけて開いていく。
リヴァイ兵長は虫の息で、立体起動装置も超硬質ブレードもない私は、男の人相手にはきっと何の役にも立たない。
もしも入ってくるのが敵なら、終わりー。
レインコートがチラリと見えた。
ゴクリー、息を呑む。