【リヴァイ】いつか地平線を眺めるなら【進撃の巨人】
第10章 ◇第九話◇震える背中の覚悟【調査兵団入団編】
巨人談議に花を咲かせるという提案をに却下されたハンジは、1日中、兵舎の案内と説明をして回った。
人数の多い駐屯兵団や憲兵団とは違い、小さな兵舎だが、それでも案内や説明をしようとすると1日がかりになるのだということを今日知った。
なかなか疲れた。
を部屋まで送り、自室に戻ったハンジは、硬いベッドに背中からダイブする。
調査兵団の兵舎にやってきて初めての夜が、ハンジにもあった。不安と期待で胸がドキドキして、なかなか眠れなかったのを覚えている。
は今夜、どんな夜を過ごすのだろう。
ハンジが過ごしたあの夜とはかけ離れていることだけは、断言できる。
「ごめんな…。」
ハンジの口からは、無意識に謝罪の言葉がこぼれた。
自分から地獄の門へ引っ張ってきたのだ。謝るなんて無責任だと重々承知している。
でも、の不機嫌な横顔が消えてくれない。
怒っています―と全身でアピールしていないと今にも泣いてしまいそうだった彼女の心に、気づいていた。
兵舎をキョロキョロと見渡す不安げな瞳だけは、嘘をついていなかったから。
自分の恐怖を押し殺してでも家族を守りたい―。
彼女にそう思わせたのは、先日のトロスト区巨人襲来が起因しているのだろう。
あの日、家族を失い絶望に落とされた人達を、彼女は他の人達よりも多く見たのだろうから。
『え?結婚って、あの結婚のこと?え?貴族の彼は?』
『家族が内地に移住する理由が必要です。』
『それなら貴族の彼に協力してもらえばいいんじゃないの?』
『別れました。』
『え!?なんで!?』
『明日死ぬか分からない女と結婚する男なんていると思います?』
『…思っていたよ。』
『おめでたい人ですね。
家族が移住するときには、私は調査兵団の誰か偉い人と結婚することになって
トロスト区の兵舎に嫁いだと言ってください。』
『それで、偉い人のお嫁さんの家族は内地に移住させることになった、と?』
『はい。』
『あ~、嘘も方便ってやつだね?
…でも、それなら、ご家族の引っ越しのときに君から伝えれば―。』
『私は行きません。』
『明日死ぬか分からない男との結婚なんて反対されるから?』
『…私を置いていかないでって、我儘を、言ってしまうから。』
目を伏せて小さく呟いたが、初めてハンジに見せてくれた弱さと本音。