【リヴァイ】いつか地平線を眺めるなら【進撃の巨人】
第58章 ◇第五十七話◇不穏のはじまり(下)【恋の行方編】
ここでもしが断れば、弁償させればいいだけだ。
弁償が出来ないとなれば、身体で払わせてもいい。それにすら抵抗するのなら、それこそ調査兵団への資金援助は打ち切るように父親に頼むつもりだ。
(まぁ、どっちにしろ、この女に選択権なんかねぇんだよ。)
返事を貰う前から、クローテは勝ち誇った笑みを浮かべていた。
を守る紳士を気取るナナバという優男も調査兵だと聞いている。
ということは、調査兵団を守るためには、を差し出すしかないのだ。
さっきまで、自信満々に守っていた女を差し出すときの間抜けな優男の顔を早く拝みたいー。
そう思って、返事に躊躇っているからナナバに視線を移したクローテは、たじろいだ。
ナナバがこちらに向けている蔑むような目と、目が合う。
そこに映っているのは、もしかして自分なのか。
兵士風情に、哀れそうに見られているのか。貴族である自分がー。
「そっちが条件交渉に出るなら、こっちからもいいよな。」
ナナバはそう言うと、身体を前のめりにしてクローテの耳元に口を近づけてきた。
そして。
「もし、がどうしても欲しいならー。」
ナナバが続けた言葉に、クローテから血の気が引いていく。
恐ろしさで身体が震えて、無意識に逃げるように数歩後ずさった後、膝から崩れ落ちた。
「それじゃ、私達は帰らせてもらうよ。
エルヴィン団長がお呼びのようだ。」
さっきまで見下しているつもりだったナナバから、クローテは見下ろされる。
でも、悔しさを感じる余裕もないほどに、クローテの頭は恐怖が支配していた。
声さえも出ずに、何度も頷くだけで必死だった。
何が起こったか分からない様子のの肩を抱いたまま、ナナバが背を向けて歩き出す。
「さぁ、もう大丈夫だよ。」
「ナナバさん、どんな条件を出したんですか?」
「条件?あぁ…!
誰でも優しくなる魔法の呪文を囁いただけだよ。」
「魔法の呪文ですか?」
「そう、魔法の呪文。」
ククッと笑うナナバの背中が上下に小さく揺れていた。
何が魔法の呪文だ。
クローテが聞かされたのは、そんな可愛らしいものではない。
悪魔の囁きだ。悪魔の手先が、悪魔の囁きを落としていっただけだ。