【リヴァイ】いつか地平線を眺めるなら【進撃の巨人】
第56章 ◇第五十五話◇もう二度と戻れない日常【恋の行方編】
午後からの訓練の前にエルヴィン団長に提出しなければならない書類があった私は、上官達のいる最上階のフロアにやってきていた。
すれ違った数名の分隊長に声を掛けられながら、私はエルヴィン団長の執務室兼自室を目指す。
あの夜から、もう何日経ったのだろう。
数えるのも虚しいから分からないけれど、一つだけ、確かなことがある。
リヴァイ兵長とはもう二度と、ただの部下と上司の関係には戻れないということだ。
リヴァイ兵長の姿なら、時々見かけることはあった。
それは、リヴァイ班のメンバーと一緒にいるところだったり、エルヴィン団長やハンジさん達と一緒にいるところだったり、訓練中だったり、いろいろだ。
でも、リヴァイ兵長はいつも決まって、私の姿を見つけると、一瞬だけ顔を歪めた後に背を向けてしまう。
あの夜、気持ちを伝えたりしなかったら、お酒の勢いでもいいから、他の女の人の名残が残る手つきでも何でもいいから、リヴァイ兵長の好きにさせていたのなら、こんなことにはならなかったのだろうか。
私は今でも、リヴァイ兵長のその瞳に、ただの部下として映してもらうことは出来たのだろうか。
あんなにツラくて、本当は抜け出したいと願っていた部下という居場所が、今は死ぬほど恋しい。
「失礼します。」
エルヴィン団長の執務室に到着し扉を叩いた私は、部屋の主の許可をもらい部屋に入る。
そして、すぐに後悔した。
1人だとばかり思っていたエルヴィン団長は、中央のローテーブルを挟んで、ハンジさんとリヴァイ兵長と話をしている最中だったようだ。
タイミングが、悪かった。
入ってきたのが私だと気が付いたリヴァイ兵長は、いつものように顔を歪めた後、私から目を反らした。
「あ!リヴァイ、どこ行くんだよ?!まだ話の途中だよ?!」
立ち上がり、部屋を出ていこうとするリヴァイ兵長をハンジさんが慌てて引き留める。
エルヴィン団長も、話の途中で席を立とうとするリヴァイ兵長の背中を見て片眉を上げた。
「用事を思い出した。話は後でまた聞く。」
ハンジさんは引き留める言葉をまだ続けたけれど、リヴァイ兵長は振り返ることはなく部屋を出て行ってしまった。