【リヴァイ】いつか地平線を眺めるなら【進撃の巨人】
第55章 ◇第五十四話◇魚も溺れる夜【恋の行方編】
蹴破られるように扉が開いてから、ほんの数秒の出来事だったはずだ。
でも、野生の猛獣に襲われる前みたいな感覚は、私とジャンにその時間を酷く長く感じさせた。
リヴァイ兵長の足が、一歩前に踏み出すのがスローモーションみたいに見えた。
私の上で、ジャンは冷や汗を流していて、少し震えていたと思う。
「ちがー。」
話を聞く気はサラサラなかったらしいリヴァイ兵長は、ジャンの胸ぐらを掴みあげると、床の上に投げ捨てた。
腰から落ちた痛そうな音に驚いて、私も焦って身体を起こした。
痛みに顔を歪めたジャンを見下ろすリヴァイ兵長の顔は、今まで見たことないくらいに怒りに染まっていた。
顔だけじゃない。
彼の身体全体から、いや、彼を包むオーラ全てを怒りという感情だけが支配しているようだった。
怖くて、戸惑って、私の喉はカラカラに渇いて、ジャンを庇う言葉が出てこない。
彼が何も悪くないことを知っているのは、私だけなのにー。
「3秒やる。」
リヴァイ兵長は、恐ろしい顔でジャンを睨みつけながら、ここに来て初めて口を開いた。
腹の奥から唸るような低い声は、ひどく冷たくて背筋が震えた。
それを自分自身に向けられたジャンの恐怖は想像もできない。
「へ…?」
怯えながらも、言葉の意図を理解出来なかったジャンから、上ずった震えた声が漏れた。
「我慢出来るのはそれまでだ。」
「え、あのー。」
「3秒後もそのクソみてぇな顔を俺に晒しやがったら、
俺はお前を…殺す!」
「…!?は、はいッ!!」
カッと睨みつけたリヴァイ兵長の怒りに満ちた目に怯えたのか、彼の本気を肌に感じたのか、慌てて立ち上がったジャンは、転がるように部屋から飛び出していった。