【リヴァイ】いつか地平線を眺めるなら【進撃の巨人】
第2章 ◇第一話◇悪夢の再来【調査兵団入団編】
ヒルラだけではなく、事務所の上司や先輩、友人は一様に驚き、そして手放しで喜んだ。
これであなたの人生は安泰だね―と。
でも、私はそうは思っていなかったし、家族もそうだった。
貴族である彼が、こんな壁の最南端に暮らす田舎町の娘と結婚してくれるなんて誰が想像できるだろう。
少なくとも、私は“今だけ”の恋人だと思っていたし、いつかの別れを覚悟していた。
でも、彼は違った。
よくある“お金持ちタイプ”である両親を説得し、私達家族全員でウォール・シーナのストヘス区へ移住することを条件に、結婚の許しを貰ってきてくれたのだ。
そしてやっぱり、ヒルラだけではなく、事務所の上司や先輩、友人が一様に驚き、そして手放しで喜ぶ姿を想像するのは容易い。
これであなたの人生は最高になるわね―と。
「はぁ…。」
隣にいるヒルラに聞こえないようにため息を吐く。
スラリと伸びた手足と整った顔立ち、容姿端麗に加えて、誠実で優しく、一途に自分を愛してくれる。
そして、貴族出身で将来安泰。しかも、家族まるごとを壁の中で最も安全な内地で面倒を見ると言ってくれている。
結婚相手にこれ以上に最高の相手は、きっと今後、何度生まれ変わったって出逢うことはないだろう。
それなのになぜ、私はこんなに不安なんだろう。
そんなことを考えていると、思わず笑いが出てきてしまった。
さすがにヒルラに聞かれて、また彼氏のことでも考えていたのかとからかわれる。
でも、そうじゃない。
可笑しくなったのだ。
100年の平穏が巨人によって踏み潰されたあの日、この悪夢は絶対に忘れないと思った。
人類のほとんどすべてがそう思ったはずなのに、平和な5年という月日が忘れさせていることに気づいたのだ。
だって、私の心は今、結婚への不安で支配されているのだ。
なんとも自分勝手な記憶、感情だろう。
「幸せだなぁ。」
「はいはい、アンタは幸せ者よ。」
ヒルラがため息交じりに言う。
「よかったわね。絶対に幸せになりなさいよ。」
ピースサインを見せるヒルラの指の爪は、塗られたばかりの真っ赤なマニキュアが煌めいている。
アンタばっかり―と愚痴を言う割には、自分のことのようにプロポーズを喜んでくれているヒルラの笑顔は温かくて、私はやっぱり幸せだと思った。
その瞬間に、ほんの些細な幸せすら許さないとばかりに、大きな轟音にぶち壊されるとも知らずに―。