【リヴァイ】いつか地平線を眺めるなら【進撃の巨人】
第53章 ◇第五十二話◇臆病者の夜【恋の行方編】
いつの間にか、リヴァイ兵長は髪を乾かすのは終わっていたようだ。
チラリと見ると、肩にタオルをかけたまま、つまらなそうにソファに座っていた。
リヴァイ兵長は、トップは長めだけれど刈り上げだから、髪もすぐに乾くのだろう。
髪が短い人は、こういうとき羨ましいと思う。
だからって、それが理由で髪を切ろうとは思わないけれど。
「リヴァイ兵長は、女性の髪は長いのと短いのはどっちがタイプなんですか?」
「考えたこともねぇな。」
「今まで好きになった人は、どっちが多かったんですか?」
他愛もない会話を装って、すごく勇気を出して聞いた。
今までどんな人を好きになったのかなんて、本当は知りたくない。
でも、聞きたい。
複雑な気持ちで、リヴァイ兵長の返事を待った。
けれどー。
「覚えてねぇ。」
リヴァイ兵長は素っ気なく答えた。
本当に覚えていないわけはないのにー。
でも、好きな人のタイプは知れなかったけれど、過去の女性の話を聞かずに済んでよかったとホッともした。
一心に髪を乾かし続けたおかげで、それからすぐにだいぶ髪も乾いた。
「リヴァイ兵長のタオル、もう使わないなら
私のと一緒に脱衣室に持っていきますよ。」
「あぁ、助かる。」
タオルを渡そうと出したリヴァイ兵長の手を見て、私はようやく気が付いた。
宿屋に来るまではあったはずの包帯が巻かれていない。
シャワーのときに外したのだろう。
「手、見せてください。」
タオルを受け取った後、私はリヴァイ兵長の手を掴んだ。
私が何をしようとしているのか察したのか、すぐに傷口を隠そうとした手を両手で包んで動きを止める。
(こんなことに…。)
いつも包帯を巻いているのだから、当然かもしれないが、傷口を見るのは、初めてだった。
傷は塞がりかけているようだが、包丁の刃が食い込んだと思われる傷跡が痛々しい。
(そうだ、肩も…っ。)
右肩のあたりを見ると、そこにも刺傷が残っていた。
こちらの方が傷が深いのか、右手のひらよりも傷跡が生々しい。
「こんなに、深い傷だったんですね…。」
リヴァイ兵長の手を包む自分の手が小さく震えていた。
大怪我をさせた認識はあった。でも、それを目の当たりにすると、怖くなった。
リヴァイ兵長に怪我をさせたことも、その傷を作った包丁の刃が自分に向いていたという現実もー。