【リヴァイ】いつか地平線を眺めるなら【進撃の巨人】
第5章 ◇第四話◇指輪【調査兵団入団編】
親戚の家で暮らすことになってから、私はリビングのソファに座って窓の外をただぼんやりと眺めて過ごしていた。
朝も昼も夜も、ずっと。飽きもしないで、行きかう人を眺めては、人間の生活をしている彼らの姿に安心して、胸をなでおろす。
あの日、トロスト区内の巨人掃討作戦が終わった後、あの勘違い兵士の目を盗んで制服を脱ぎ、晴れて民間人へと戻ることが出来た。
内門の中でようやく家族と再会できた時は、両親も兄弟も友人も、どこを探しても見つからない私の死を嘆き悲しみ、そして発狂して泣き喚いていた。
私が現れたときの両親の顔は、きっと一生忘れないと思う。
あのとき、私は初めて、父親の涙を見た。
幽霊でも見たかのような驚いた表情が、一気に破壊され、瞳からどっと溢れる涙を拭うこともせずに頬に流し、駆け寄ってきてくれた。
母親と父親にキツく、キツく…抱きしめられたとき、彼らの温もりにどれだけ安心したか。
『よかった…っ。生きてた…っ。』
『この…っ、バカ娘!どこ行ってたんだ…!』
泣きながら、娘が生きていたことを喜び、そして心配をかけたことを叱る両親の言葉に、それだけ恐ろしい状況にいたのだということを改めて実感し、恐怖感が一気に湧きあがった。
それさえも、巨人とは比べ物にならないくらいに小さな彼らの手が、私をキツく抱きしめる度に消してくれた。
もう二度と、私は両親の涙を見たくない。
大切な家族を泣かせたくない。
だからというだけではないが、駐屯兵に勘違いされて兵士として作戦に駆り出されたことは誰にも言っていない。
民間人が勝手に立体起動装置や超硬質スチールを使用することや巨人を討伐すること、勘違いによる強制だとしても兵士のフリをしたことが罪に問われるのかどうかは知らない。
でも、その可能性だってないわけじゃない。
それに、わざわざその話をする必要性も感じられない。
あのときはいた兵士が1人いなくなっていたくらいで、駐屯兵団が騒ぐとは到底思えなかった。
だって、1人どころか100人以上の兵士が、あの日、一度に、いなくなったのだから―。
「結婚、か…。」
あのとき、命を懸けてまで探しに行った指輪は、左手の薬指で、こんな混とんとした世界には不釣り合いなくらいにキラキラ輝いている。
そっと撫でれば、ひんやりとした冷たい感触が指先から心臓まで走り抜けて、思わず身震いをした。