【リヴァイ】いつか地平線を眺めるなら【進撃の巨人】
第32章 ◇第三十一話◇壁外調査初日の洗礼【調査兵団入団編】
私が所属するハンジ班が配置されたのは、三列の中央。
荷馬車護衛班の前方に位置し、比較的安全な配置だった。
長距離索敵陣形は頭に叩き込んだ。
今のところ、何度か進路の変更はあったものの、奇行種や危険を知らせる煙弾は確認されていない。
ここまで見えていないだけかもしれないが、運よく奇行種との遭遇を避けられていると思いたい。
「ようやく顔がしっかりしてきたね。」
ハンジさんはチラリと私を見ると、また前を向いた。
「勝手な行動をとってすみませんでした。
おかげで、震えも止まりました。」
「ビックリはしたけどね。最初はみんな巨人よりも恐怖との戦いだ。
それに勝ってくれたんなら、なんだっていいよ。」
「はいっ、もう大丈夫ですっ!」
「うん、頼もしい!」
ハンジさんが満足気に口の端を上げた。
私は自分の握る手綱を見下ろす。
もう手は震えていない。
でも、胸が躍るように震えていた。
ここは壁の外だけれど、元壁の中でもある。
それでも、なんだか空気が澄んでいるように感じるのは、人間同士の欺瞞の匂いがしないからだろうか。
我が先にと利益を求めるばかり、人の不幸を喜ぶような生き物がいないからかもしれない。
これがウォール・マリアの壁の外の世界なら、もっと空気がきれいなのだろうか。
見てみたい。行ってみたい。
人間が足を踏み入れることを許されない世界。
そこにいるのはー。
「奇行種か。」
モブリットさんが、左前方を見て呟く。
たった今上がった煙弾の色は、黒。奇行種が現れたことを知らせるための煙弾だ。
あの煙弾の下で、誰かが巨人と戦っている。
「、ダメだよ。」
ルルの方を見ると、心配そうに私を見ていた。
今すぐにでもあの煙弾の元へ行こうとする私の心とテュランに気づいたようだ。
ここで隊列を崩すのは良くないことは分かっている。
でもー。
「大丈夫、あのあたりならナナバとゲルガーがいるはずだから。」
モブリットさんの優しい声色を聞いて、ようやく焦っていた心が落ち着きを取り戻す。
そうだ。ナナバさんとゲルガーさんがいるなら、きっと大丈夫。
そう、信じるしかないのだ。
「はいっ。」
前を向いた私に、ハンジさん達もホッとしたようだった。
それからしばらくは、何度かの黒や赤の煙弾によって進路変更を余儀なくされたものの、作戦はほぼ予定通り進んでいるようだった。