【リヴァイ】いつか地平線を眺めるなら【進撃の巨人】
第3章 ◇第二話◇不本意な兵士達の戦い【調査兵団入団編】
ピクシス司令に背を向けて歩き出そうとした私に、その背中を押す声が聞こえてきた。
「ワシが命ずる!今この場から去る者の罪を免除する!!」
すべての兵士達が驚き、壁の上に立つピクシス司令を見上げた。
「一度巨人の恐怖に屈した者は二度と巨人に立ち向かえん!
巨人の恐ろしさを知った者はここから去るがいい!」
その言葉は、兵士ではない私には響かなかった。
当然そうだ、としか思わなかったけれど、顔を崩して、泣きそうになった兵士は数名だけではなかった。
「そして!!
その巨人の恐ろしさを自分の親や兄弟、愛する者にも味わわせたい者も!!
ここから去るがいい!!」
ピクシス司令のその言葉は、兵士の心に重く突き刺さった。
あの男は、きっと悪魔の化身だ。
誰が、好き好んで巨人の胃袋へと向かいたいと言うのだ。
どうか、教えてほしい。
一体、誰が、喜んで家族や恋人、大切な人が巨人に襲われることを望むというんだろう。
率先して立ち去ろうとしていた兵士さえも、唇を噛み、拳を握り、恐怖に震えながら、死ぬ覚悟を決めて、踵を返す。
その先にあるのは、地獄へと続く門だと分かっていながら、その歩みが止まることはない。
人類のために心臓を捧げると決めた彼らだからこそ、出来ることなのだと思う。
壁の中で見せかけの平穏に浸かりきっていた民間人には、到底無理だ。
じゃあ、なぜ、私の足は、地獄の門へ向かって歩き出してるんだろう。
心臓を捧げた覚えもないし、私は壁の中で守られていればいい存在なのに。
どうして、家族の顔が、あのときの母親と少女の顔が、ヒルラの顔が、頭に浮かぶんだろう―。
(いやだ!行きたくない…!)
頬を生温かい涙が流れていくのを感じる。
それでも止まらない足が、まるで違う誰かのものみたいで気持ちが悪くて、吐きそうで、地獄の門へ向かう間、私はずっと、泣いていた。