【リヴァイ】いつか地平線を眺めるなら【進撃の巨人】
第25章 ◇第二十四話◇好きになった人【調査兵団入団編】
家族のために調査兵団に入団することを決めた。そうカッコいいことを思っていたけれど、結局は騙しているのだと、改めて理解した。
もしも、私に何かがあったとき、母はどう思うのだろう。父はどんな顔をするのだろう。
母が淹れてくれた紅茶に伸ばしかけていた手が、止まった。
私は、母の紅茶を飲む権利がなくなったのだ。
母の優しさを貰える権利をなくした。
膝の上で握った拳に気づいたのか、ハンジさんの大きな手が優しく包んでくれた。
驚いて顔を上げた私と目があったハンジさんは、私にウィンクをくれる。
やっぱり、上官がハンジさんで、私は本当に運が良かっった。
「お母さんたちの大切な娘さんは、私達がしっかり守りますので、安心してください。」
「はい、それはもちろん。
何といっても、娘には人類最強の兵士さんがついていますからね。」
「そうですよっ!だから、大丈夫ですっ。」
「娘がリヴァイ兵長と結婚したなんて、今でも信じられません。」
わけのわからないことを言った母が困った顔をして、なんだか可笑しそうに笑う。
そして、ハンジさんも、私も信じられません、とかなんとか言いながら大笑いした。
一瞬、パニックになったけれど、すぐに思い出した。
『家族が移住するときには、私は調査兵団の誰か偉い人と結婚することになって
トロスト区の兵舎に嫁いだと言ってください。』
慌ててリヴァイ兵長を見て、ここは地獄かと血の気が引く。
独特なティーカップの持ち方で紅茶を飲む格好のまま、リヴァイ兵長はこの世のものとは思えないほど恐ろしい顔でハンジさんを睨みつけている。
ハンジさんの額に冷や汗が流れているのは、苦手な嘘に付き合っているからではなくて、人類最強の兵士が放つ殺気のせいだったようだ。
「お母さん、あのね、本当は―。」
「でも、本当によかったわ。娘が、本当に好きな人と結婚してくれたみたいで。」
恋人のいるリヴァイ兵長に迷惑な役を押し付けるわけにはいかない。
事実を話すしかないと腹を括った私に、母は本当に幸せそうな笑みを返した。
言えない。
あなたの娘は、あと1か月もしないうちに巨人がウロウロいる壁外に出て、生きるか死ぬかの戦いをしてきますなんて、言えない。
言えるわけない。
母の笑顔からも、何も知らないリヴァイ兵長の事情からも目を反らした私は、本当に最低だ。
今朝よりまた、私は自分のことが嫌いになる。