【リヴァイ】いつか地平線を眺めるなら【進撃の巨人】
第24章 ◇第二十三話◇残った貴方の跡は【調査兵団入団編】
「貸せっ!」
怒ったようなリヴァイ兵長の声に思わず顔を上げたときには、私の指は、決して大きいとは言えないけれど骨ばった男の人の手に捕まれていた。
少しきつめに私の指を摘まんだリヴァイ兵長は、止まらない血を見てチッと舌打ちをした。
「来いっ!」
「え?」
リヴァイ兵長に強引に立たせられ、キッチンに連れて行かれた私は、水道の水で傷口を洗われた。
後ろから抱きしめるようにして私の指を洗うリヴァイ兵長の胸板が背中にあたる。そこから身体中に熱が広がっていって、あっという間に身体中が熱くなった。
心臓の音と水道の音が混ざり合ってうるさい。
自分でするから大丈夫だと言う私に、リヴァイ兵長は傷口にカップの破片が残っていたことを教えてくれた。
こういうのは他人にやってもらった方が、傷口から破片を出しやすいと言われたら、断れなくなる。
「カップは私が片付けるから、気にしないでね。」
「うん…、ごめんね、ペトラ。」
「いいよ。じゃあ、リヴァイ兵長、をお願いします。」
優しいペトラの背中が、寂しいと言っていたのに、確かに胸は痛んでいるのに、私の心の中は、嬉しいに似ている感情がほとんどを支配していた。
今この時だけ、リヴァイ兵長は恋人ではなくて、私のそばにいてくれる。
リヴァイ兵長とペトラがキスすることもないし、愛の言葉を交わすことだってない。
ただ、逢瀬を邪魔した迷惑な部下の傷の心配だけをしてくれる。
私ってなんてー。
迷惑な部下、同僚だけではなくて、なんて性格の悪い女なんだろう。知らなかったし、知らずにいたかった。
そんな自分が嫌でたまらなくても、嬉しい気持ちが消えるわけじゃない。
私の邪な気持ちなんて知りもしないリヴァイ兵長は、苛立った様子で、私の指に残るティーカップの破片を水で流そうとしている。
私の心に空いた小さな傷口にも、もしかしたら、私が知ってしまったリヴァイ兵長の優しさとかそういうものが残っているのかもしれない。
それなら、苛立つリヴァイ兵長に、その傷口も洗って欲しい。きれいさっぱり消えてなくなるように、洗い流してほしい。
それなのに、背中にあたる熱に意識を集中する私は、巨人から助けてもらったあとに抱きしめてくれたリヴァイ兵長の優しい腕の温もりを、ただひたすら忘れないようにしていた。