【リヴァイ】いつか地平線を眺めるなら【進撃の巨人】
第2章 ◇第一話◇悪夢の再来【調査兵団入団編】
アンカーを巨人のうなじに刺しながら、私はあのときの若い訓練兵を思い出していた。
彼女はどうやって巨人を倒していたか。
まずはこの拳銃のようなレバーでアンカーを巻き取り、巨人の背中へ一気に近づく。そして、この超硬質スチールを天に掲げ、思いっきり振り落とし、一気にうなじを切るー!
「ぐぁっ!!」
巨人が不気味なうめき声をあげた。
やった、やっつけたー!
ホッとしたのも束の間、巨人が後ろを振り向いた。
大きな目が私を捉える。
ここからの立て直し方なんて、私は知らない。
もうダメだ―、そう思ったが、巨人が力尽きる方が早かったようだ。
ヤツはこちらを向いたままゆっくりと後ろに倒れていった。
(マズい…っ!)
巨人が倒れていった先には、力尽きた巨人が手を放して落とした母親と残してきた少女がいる。
慌てて地面を見ると、母親が少女を抱きしめ、必死に目をつぶって落ちてくる巨人を待ち構えているところだった。
「間に合って…!」
いまだ震える手の力をなんとか振り絞って、もう一度、レバーを引く。
今度は巨人ではなく、母親と少女の後ろにある駐屯兵団施設の壁にアンカーを刺した。
そのままもう一度レバーを引いて、アンカーを巻き取る。
猛烈な勢いで自分の身体が、母親と少女のもとへと向かう。
強い風を受けて、顔が痛い。
でも、目をつぶったら、母親と少女を助けるどころか、壁に激突して自分も死んでしまう。
あっという間に母親と少女のもとへ辿り着いた身体だが、そこで止まってはくれない。
風のような勢いのままで手を伸ばし、母親の身体に抱き着いた。
急なことに悲鳴を上げる彼女は、さすが母親だ。娘だけは絶対に手放さなかった。
それからどうやったかはもう覚えていない。
気が付けば、駐屯兵団施設の建物の上に落ちるようにしてたどり着いていた。
それまで、おそらく数秒しかかかっていなかったはずだ。
だが、ようやく辿り着いた―と表現するのが正しいくらいに長く感じた。
「よかった…。」
腰が抜けて、膝から崩れ落ちる。
私の隣では、母親が少女を抱きしめたまま放心していた。
巨人が消えていく蒸気だけが、まるで生き物のように動いていた。