ここは私達の世界です【HUNTER×HUNTER】続番外編
第14章 迷子はダイブ
観光客は早くも野次馬と化してザワザワと嫌に騒がしく
私は頭が真っ白になっていた
何が起こっているのかわからない
そんな時だった
「沙夜子。」
聞こえる筈の無い彼の声が真横から聞こえて飛び上がった私は危うく川にダイブしそうになった
バクバクと耳にもうるさい心臓と大量の冷や汗が身体を流れて、とてもじゃないが声が出ない
彼は確かに川へ飛び込んだ
しかし濡れた様子ひとつ無く平然と隣に彼が立っているのは異様な光景であった
「……イ、イ、イルミさん……何で………?!」
漸く絞り出した声は現実を受け入れられず酷く震えて
「沙夜子はこんな風に突然消えて迷子になるんだよって実演してみたんだけど。」
やれやれと話す彼は最早恐ろしい人物以外の何者でもなかった
そして気付いた頃には辺りから一斉に刺さる視線
野次馬の「今の何?」なんて声がボソリと聞こえて今度は違う汗が吹き出した
「今何したんですか!!」
勿論小声である
「飛んだ瞬間に橋の柵を掴んで戻っただけだけど。」
つまり腕力だけで地上へ舞い戻ったと………
……そりゃザワザワする筈だ
常人には有り得ない事をサラリと答えた彼
そして好奇の目を向ける人々を前に正常な私の胃は破裂しそうに痛かった
私は冷や汗でギトギトなのも構わずに彼の手首を掴んで人波を縫い走った
正直者な彼の事、何をしたのか聞かれれば素直に答えてしまうかもしれない
そうなれば彼はたちまちビックリ人間的な有名人になってしまう……ッ
今以上あの場に留まっていても事態は悪化するばかりだと判断したのだ
私は低いながらヒールにも関わらず人生のトップスピードで爆走し
橋からたっぷり離れてから荒い呼吸で叫んでいた
「何であんな凄い事するんですか!!!目立つでしょ!!」
私は生粋の日本人………目立つ事は怖い事………
しかし彼は何故か少し嬉しそうに
「………凄い?」
なんて瞳を輝かせるものだから私はこんこんと注意をしたのだが
「あんな風に突然消えるんだよ、沙夜子と同じでしょ?」
あっけらかんと言い放ちながらクリッと首を傾げた彼はきっと反省なんてしていないだろう…………