ここは私達の世界です【HUNTER×HUNTER】続番外編
第12章 瓦、彼方へ
新婚旅行【滋賀県編】2
私達はランチの後、近江八○の水郷めぐりへ向かった
水路に浮かんだ小さな小舟を船頭さんが手漕ぎで進める情緒溢れるツアーだ
緩やかに流れる水路では街の喧騒が遠退き木々がざわめく音や静かな水音に耳を傾ける、まるで其所だけ時間軸が巻き戻った様な穏やかな時が流れていた
カモを間近に見る事が出来たり、船頭さんが語ってくれるウナギが取れるなんて話に感心したり
小さく掛かった橋の下を時々通り過ぎる以外に文明を感じない雄美な景色は時代錯誤なくらい昔のままの自然を美しく見せていた
何でも自然をそのまま保存しているらしく電柱のひとつも無く見渡す限り広がる素朴な風景は心を洗って
屋根の付いた小舟に揺られれば心地好い風が涼やかに頬を撫でた
水路の先でキラキラと輝いて見える湖はかつて織田信長が西の湖と名付けたのだと話してくれる船頭さん
もしかしたら名だたる戦国の武士達も今と変わらない景色を見ていたのだろうか………なんて感慨深く思いは巡る
「沙夜子あそこ見て鯉がいる。」
そんな悠久の中ポツリと呟いた彼は静寂の時に驚く程似合っていて
水面の反射に長い睫毛を僅かに伏せる些細な仕草すらも美しく
戦国時代の貴族がタイムスリップしてやって来たと言われても信じてしまいそうになる
彼の視線を辿れば水面から離れる様に身を隠した鯉
「見えた?」
無感動な表情が此方を向いて私は黒い瞳に吸い込まれる様に息を飲んだ