ここは私達の世界です【HUNTER×HUNTER】続番外編
第43章 知人に会う話
…………無断で車を購入していた彼が今更何を気にしているのか全く分からないけれど、もしかしたらリーフレット1冊でも室内に置く物は私の管轄だと思っているのかもしれない
まぁ憶測に過ぎないけれど、何しろ可愛い
「私も読みたいし買いましょう!」
「うん。」
私の言葉にすんなりレジカウンターへと向かった彼の背中に内心ニヤニヤしながらも
フィクションの世界に登場した武器を実用的に考えている人なんて、きっと彼くらいのものだろうなんて思った
ショッピングモールを出ると空はすっかり暗くなっていた
子供達のいない外食………そんなの居酒屋に決まっている!!!なんて勇み立ち、人波賑やかな駅前から裏通りを目指す
小綺麗に整備されていた街並みから外れてディープな香りに誘われ彼の手を引けば、あっという間に軒を連ねる赤提灯が染みる
仕事帰りのサラリーマンや大学生がワイワイと店を目指していて、そんな街の雰囲気とは真反対の存在である彼は周囲から随分と浮いているけれど
相変わらずの我関せずで当然のように隣を歩いてくれている事が嬉しい
特に何を目指すでもなく軒先の看板メニューを2人覗き見ては「どうする?」なんて些細な会話を交わしているそんな時だった
「おー!神崎やないか!久しぶりやな!」
気が付く頃には私達の目の前に立っていたその人は私の名字を呼んだ
街中で唐突に名を呼ばれ困惑のまま目の前の人物を凝視する
恰幅の良いその男性は、フレンドリーな笑みを浮かべて目尻のシワが印象的なおじさんだった
「覚えてるやろ、現場一緒に行ってた前田や!元気しとったんか!?」
記憶を辿れど見覚えの無い人物の"現場"という単語から初めて彼が私のアパートにやって来た頃を思い出す
そしておじさんが真っ直ぐに視線を向けているのは彼だった
………同じように彼を見上げれば
彼は怪訝に眉を潜めたままゆっくりと口を開いた
「前田、歯が無いよ?」
驚いた私は咄嗟に彼の腕を叩いた
彼の口からすんなり名前が出た事で知り合いなのだろうと関係性は掴めたが、久しぶりに再会して一言目にしては随分と乱暴だ
…………っ確かに……確かに、目の前のおじさんには前歯が一本無かった