第39章 持ち切れない愛とありがとう

8月1日



14時37分


ボロいアパートの一室に身を置く我が家に新たな物音が加わったのがいつの事だったかは覚えていないけれど、カタカタとキーボードを鳴らすのは白魚のように美しくも男性的に骨ばった彼の手だ

ちゃぶ台に似つかわないスタイリッシュなノートパソコンの画面を眈々と見詰めた彼は余裕綽々と片眉を持ち上げた


………彼はいつの間にか私の世界で会社を立ち上げていたのである…………


この世界で一体どうやって細々とした事を進めたのか恐る恐る質問したけれど、いつもの雰囲気で飄々と流されてしまった


結局詳細は分からずじまいだが……何やらVIPに向けた商売を展開しているらしく「軌道には乗せた、これから業績を10倍まで伸ばす」らしい………


そんなこんなで時折留守にする事が増えた彼だが本日は自宅にて執務中だ


過去に何度もパソコンに向かう彼の姿を拝んできた私だが………今日も今日とて彼は溜息が出るほど麗しい………

そして、そんな彼の隣で手の動きを真似るようにおもちゃのピアノを弾き狂っているのは娘である

自身を彷彿とさせる真っ直ぐな熱視線を彼に向けたかと思えば奏でられる独創的な音色と「ぼくア○パンマン！」の台詞


時折入るボタンの連打で「ぼ、ぼ、ぼ、ぼく○ンパンマン！」とか言わされている